老親の事故で子も責任?「家社会」日本の大難題 問われるセーフティーネットの今後のあり方
逆のこともいえる。個人の責任を、その家族にとらせるのが日本社会なのだ。2019年4月19日、池袋で高齢ドライバーの運転する車が、赤信号を無視して横断歩道に突っ込み、母子の命を奪った。自身を含めて10人が怪我をしている。
防犯カメラに残る映像は衝撃的だった。横断歩道が映し出される。そこに自転車に乗った親子がいる。若い母親は、後部座席に座る幼い娘を気遣いながら、信号が変わった横断歩道でペダルを踏み出す。家に帰るところかもしれない。「帰ったらアイスクリーム食べようね」「やったー、アイスクリーム?」なんて、会話が聞こえてきそうなほど、それは美しい日常の光景だった。
それが引き裂かれる瞬間は突然訪れる。横断歩道のなかほどまでゆっくりと進んだ自転車。その瞬間、ありえないスピードで画面に飛び込んできた物体。そして、その物体は自転車を跳ね上げる。のどかな日常が不合理な暴力によって唐突に崩れ去る。自らも負傷した加害者は病院に運ばれる。
バッシングは加害者家族にも及んだ
この高齢ドライバーは病院を動くことができない。そして警察は、彼を逮捕はしなかった。彼が旧通産省の官僚だったがゆえに、この待遇は「上級国民」扱いとネットを中心に猛烈に批判される。そして、バッシングは加害者家族にも及んだのだ。
事件発生後に、茫然自失のドライバーは息子に電話をかける。その事実が報道されると、「家族が運転を止めるべきだった」という声とともに、罵詈雑言の矛先は息子へも向かっていく。年老いた親の責任は子どもが負うべきという価値観──これが、このバッシングの背後に横たわる。
そういう考え方の是非が正面から問われたのが、2016年3月1日のJR東海のホーム立入事故の最高裁判決だった。
不動産仲介業を営んでいた父(91歳)はアルツハイマー型認知症を発症しており、徘徊癖があった。介護を必要とする父と同居する母(85歳)は、本人も要介護認定されている。
4人の子どもたちは全員がすでに実家を出ていた。長男は、おそらく、仕事の都合で引っ越しが難しかったのだろう。そこで、長男のお嫁さんが単身で義理の両親の家の近くに越してくる。そこから長男のお嫁さんは、義父母の暮らす家に通って介護をすることになる。