老親の事故で子も責任?「家社会」日本の大難題 問われるセーフティーネットの今後のあり方

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その献身的な介護は、彼女の日課に表れている。まず、午前7時頃に夫の両親の家に行く。義父を起こして着替えと食事を介助する。福祉施設に通わせる。戻ってきた父の話を聞く。

義父が居眠りをはじめると台所で食事の準備をする。それから、3日に1回の散歩に付き添い、夕食、入浴。そして義父が眠ったことを確認して家に帰る。「長男の嫁」という、独特の役割が日本にはあるようだ。

その日も、長男のお嫁さんは介護をしていた。トイレの場所を把握できない義父は、所かまわず用を足す。その後始末として、おしっこをひっかけられた段ボールを自宅玄関先で片づけていたのだ。そのため、高齢の義母と義父が家のなかでふたりきりになってしまう。そして、義母がまどろんだそのすきに、義父はひとりで外出する。

電車に乗って隣駅で下車した義父は、そこでも用を足そうと線路内に降りていく。そのときに、事故は起こったのだ。

折しもホーム内に進入してきた電車が義父をはねる。電車の遅延も含めてその結果生じた損害720万円余り。これをJR東海は、民法714条に基づいて、亡くなった当人ではなくその妻と長男に請求した。

監督者の責任を問う民法714条

日本の民法714条は、事故を起こした本人ではなく、監督する者の責任を問う規定である。この714条は、未成年の子どもも認知症の親も区別しない。両方とも、自分で責任を負うことができないのだから、監督者が責任を負うべきと定める。

これは諸外国の法律との比較でも例外的だ。未成年の子どもに対する親の責任を広く認めるドイツやフランスでも、親の責任を子どもに負わせることはない。

高齢の妻や離れて暮らす長男に責任を求めるのはやり過ぎだという考えもあるだろう。実際、第一審では認められた妻と長男の責任を、最高裁は両方とも引っくり返した。

だが、高齢の妻と離れて暮らす息子には責任がないとした最高裁の常識的な判決は、民法714条のもともとの趣旨からは外れるという。なぜなら、この民法714条の定めは、「個人」ではなく「家」が責任を負う家制度の時代の遺物だからだと、家族法の教授は説く。

この条文は、もともと家長に責任を問うための定めだったのだ。亡くなった当人を介護していたのは長男のお嫁さんなのに、離れて暮らす長男が責任を問われている。その理由がここにある。

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