杜氏のいない「獺祭」、非常識経営の秘密 データ分析による集団体制で日本酒を造る

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「獺祭 磨 その先へ」は720ミリリットルで3万2400円。同社は、遠心分離法など新しいテクノロジーの導入にも余念がない

私はユダヤ教ではないですが、先日、伺ったユダヤの教えというのが面白いと思いました。ユダヤの教えの中では、最後に「神の目から見てこれが正しいか」で判断するという教えがあるそうです。ここで言っていることは、「社会に対する視点があるか」ということだと思いますが、経営者にはこの視点が大事なのだということだと思っています。

たとえば、獺祭はメルセデスベンツのファッションウィーク東京の公式スポンサーになっています。獺祭以外はメイベリンニューヨークやDHLなど、企業規模で考えたら明らかにケタが違う。これをなぜ受けたかというと、ひとつには、お酒とファッションは「必要のないものだけど人生に潤いを与える」という意味で、非常に親和性があると思ったこと。もうひとつは、主催者から話を聞いたときに、ここでうちが出なかったら、何十年経っても日本酒業界にはもうどこにもいかないだろうと思ったからです。

また、東北の大震災の後、1年間は売り上げの1%を寄付しました。翌年は特別なお酒を造って、その売り上げをすべてそのまま寄付しました。今年からは、二割三分という主力商品について、1升瓶100円、4号瓶50円を東北の震災孤児の就学支援に出しています。しかし、私自身が街頭に立って募金をお手伝いするかというと、それはちょっと違う。私たちは、企業の生業を持って社会に貢献すればいいと思っている。獺祭という会社が、酒を造ることによって地域や社会にお返しできるものがあるんじゃないか、というのが大きい。ユダヤの教えはこういうことを言っているのだろうなと思っています。

100%勝たなくていい。70%の勝率で万々歳

――そうした判断をする際、データはどれくらい「使える」のでしょうか。

状況を把握できるという意味で、数字は非常に大事だと思います。言うのが恥ずかしいような話ですが、獺祭がうまく行くようになったのは、Excelが使えるようになったというのも大きい。Excelがあれば、会社の決算とかいろいろな状況が自分でわかりますよね。それも瞬時に。これが手計算で自分でやっていた頃は、数字が悪くなるとイヤになって途中でやめてしまっていました。

経営の判断には絶対に1円も間違わないソフトよりも、少々違っても瞬時にわかるほうが状況判断にすごく役立ちますよね。数値でわかるものは全部把握できているという安心感があれば、数字ではわからない領域にも思い切って踏み込めます。

経営の現場は、甲子園でトーナメントやっているわけではないので、100%勝つ必要はない。70%くらい勝つことができれば万々歳。あとは、負けるときに徹底的な負けをしないことや、負けがわかったときに、とにかく逃げるのを早くすること。そのためには、今の経営の状況をわかっていることが大事です。

――データが“儲かる”、要は成果につながるために必要なことは何でしょうか。

データを成果につなげる大事なポイントは「意思」でだと思いますよ。先ほどは「欲望」とも言いましたが、つまりは経営者がやろうとする思いを持っていること。その思いが、決して社会に対する視点を失っていないこと、また社員に対して不利益をもたらさないことが重要です。

決して社員に不利益なことをしない、という行動を続けていくことができれば、社長が少々無理な判断をして飛ぶときでも、社員がついてきてくれる。社長が自分たちを見捨ててとんでもないところにいくのではなくて、それをちゃんと考えてやってくれている、と思ってもらえます。だから、いろいろな冒険をできるのです。

平尾 喜昭 サイカ代表取締役
山田 裕嗣 サイカ代表取締役
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