悲劇の開拓者パイオニアがプラズマパネル生産撤退 窮地
「われわれの技術力、資金力、販売力が時代のスピードについていけなかった」--。パイオニアの須藤民彦社長は沈痛な表情を浮かべた。
プラズマテレビ世界シェア4位の同社は、キーデバイスであるパネルの生産から撤退する。同社は静岡、山梨、鹿児島に生産拠点を持つが、次に発売する新製品向けを最後に生産を終了。 今後は松下電器産業からの調達に切り替える。撤退に伴う生産設備の減損処理などで、2008年3月期は4期連続の最終赤字に陥る。
数年前までパイオニアはデジタル家電の“勝ち組”と呼ばれていた。1997年に世界で初めて民生用50型ハイビジョンプラズマテレビを商品化。99年にも世界初のDVDレコーダーを発売するなど、まさに“開拓者”だった。04年3月期には営業利益で437億円をたたき出し、NECのプラズマ事業を約400億円で買収するなど、社運を懸けた攻めの経営にも出た。
技術力への過信があだ
だが、装置産業であるテレビパネル生産は規模がコスト競争力に直結する。松下や韓国サムスン電子、シャープといった大手メーカーが累計で数千億円もの巨費を投じ、その販売力と価格競争力で大攻勢をかけると状況は一変。年2~3割ペースで下がり続ける価格に、規模で劣るパイオニアは太刀打ちできなくなった。プラズマを主軸とするホームエレクトロニクス事業は赤字が常態化、今期も175億円の営業損失を見込む。「プラズマからすぐ撤退すべき」(金融関係者)という意見が徐々に大勢を占めた。
それでも、経営陣は昨年秋まで山梨に新工場の建設を画策するなど、拡大路線をあきらめていなかった。判断を鈍らせたのは「業界随一の高いパネル技術を持っていたため」(パイオニア幹部)だ。実際、「パイオニアの画質はずば抜けている」と大手量販店幹部が言うほど、業界での評価は高い。今年1月に開かれた米家電見本市「CES」で発表した厚さがわずか9ミリメートルのプラズマパネルは、同業他社を驚かせたほどだ。
昨夏、パイオニアは技術力を背景に最後の賭けに出ている。業界最高水準の画質を誇るパネルを搭載したテレビ「KURO」を投入、価格競争から決別したのだ。「規模の大きな会社と互角に戦うのは無理。多少販売量が落ちても価格は引き下げずに付加価値をとる」と須藤社長は戦略の意図を語っていた。
しかし、「いい商品を作れば売れる」(幹部)との自信は打ち砕かれた。設定価格は消費者基準ではなく、あくまでパイオニアにとって利益が出る水準。そのため、同サイズの他社製品に比べ2倍まで価格差が開き、販売は低迷した。今期の販売台数は期初計画72万台から48万台まで落ち込む見通しで、自社パネル断念のほか道はなかった。
今回の決断により、パイオニアは2010年3月期にホームエレクトロニクス事業の黒字化を狙うが、成否は不透明だ。いまだ生産撤退を発表しただけで、3工場の従業員約1500人の処遇は未定。合理化効果の金額は示されていない。外部調達の開始時期などもまだ白紙だ。プラズマと液晶の違いはあるものの、パネルを外部調達する東芝や日本ビクターは赤字で苦しんでおり、今回の方針転換が奏功するとは限らない。固定費が軽くなるものの、テレビの原価に占めるパネルの構成比は高く、外部調達ではコスト削減が難しくなる面もある。
他社との差別化要因だったパネル技術を手放すことで弱点も生まれる。付加価値戦略がとりづらく、再び価格競争の泥沼に突入し、さらに赤字が拡大してしまう可能性もあるからだ。“悲劇の開拓者”が復活するには、難しい舵取りを強いられそうだ。
(週刊東洋経済:中島順一郎 撮影:田所千代美)
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