市村:おカネを使うといっても、予算の枠組みの中ですし、リターンを考えながらの投資ですよ(笑)。ただ、従来は何にどれくらい使っているかを、明確に説明していなかっただけです。だから「ここには10億円かかっている」とか、「今度ここに何人雇った」とか、「こういうビジネスをやるために、ある企業を何億円で買収した」とか、はっきり言うようにしています。おカネを使えるのは利益を上げてくれる人たちがいるからで、同じ会社の中で「こっちは汲々としているのに、そっちは使えるからいいよね」となるのは、おかしいでしょう。だから、何にいくら使ったのか、それはなぜかを明確にするようにしています。
それから今のように変化が速くて技術的にも複雑になっている世の中で、自社でできることは非常に限られていますね。オープンイノベーションが大事だということは、もう80年代ごろから言われていました。でもその実践の仕方が、まだ弱いところがあって、何を自社で握るか、何を外部と一緒にやるのかが明確になっていないと思っています。
たとえば外と組むにしても、誰かがあそことやろうと言ったのでやらなきゃいけないとか、昔から付き合っているからこことやらなきゃいけないとか、そういうことが多いと思います。そうじゃなくて、あなたのここと私のここを組み合わせたら、何かおもしろい化学反応が起きるのかどうかを現場レベルに落とし込めるまで議論し尽くさないと、あとで現場が迷惑するわけです。
ですからダメなときはお断りするし、「あの人とやりたいな」という意見が出てきたときは、どんどん声をかけます。幸いそういうネットワークはあるので、外部の人たちを巻き込んで、どんどん議論しましょう、と思っています。
人生は気楽なはず
三宅:「自社でできることが限られているからこそ、Win-winの関係作りのために議論を尽くす」という言葉もいただきです(笑)。最後に、将来のビジネスプロデューサーに向けたエールをいただけますか。みなさんつらいこともあるはずなのに、だいたい「つらくなんかないよ」とおっしゃるのですが(笑)。
市村:そうですね。もちろんつらいこともありますけど(笑)。個人的には、「知(学ぶ)」「情(オープンに人と交わる)」「意(意識を高く持つ)」「体(健康でいる)」が備わってないと、ビジネスは回らないと思います。その点、みんなそれぞれ、勉強したり、体を鍛えたりしています。だから、みんなポテンシャルはあるのです。そこで、会社はこれらの個人を活用して皆でビジネスを盛り上げていこうとします。でも、実際には競争があったり、上司や部下が使えないという不満があったり、いろいろなことが起こります。そんな中でも、結局は、自分で楽しいと思えるかだと思うのです。
私は、基本的には「Life is meant to be easy(人生は気楽なはずだ)」と思っています。これは昔オーストラリアで、メインフレームコンピュータが1台も売れずにへこたれていたときに繰り返し自分に言い聞かせた言葉です。19世紀のオーストラリアには、ネッド・ケリーという有名な義賊がいました。ねずみ小僧みたいに、金持ちから盗んだものを貧乏な人にバラまいた国民的英雄でした。しかし彼はついに捕まって最後は絞首刑になる。
それでオーストラリアの人たちがよく酒を飲みながら話すテーマが、ネッド・ケリーは最後に何か言ったのは確かだが、それがなんだったのかということです。「Life is meant to be easy」なのか、「Life is NOT meant to be easy」なのか。オージーは陽気だから、圧倒的に「Life is meant to be easy」だという人が多い。日本人は半々か、「Not meant to be easy」という人のほうが多いかもしれない。でも私はどう考えても、「Life is meant to be easy」だと思います。特にネッド・ケリーのような破天荒な人生なんて、楽しかったはずですよ。
仕事も同じで、ある程度大変なのは当たり前だけど、自分でそれに意義を見つけて、少しずつ自分のポテンシャルを伸ばしていくのは楽しいことでしょう。
三宅:私の座右の銘は、孔子の「これを知る者はこれを好む者に如かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」という言葉です。意味は「単にやっているというだけの人はそれを好きと思ってやる人には敵わない。しかし好きと思っている人も、楽しんでやっている人には敵わない」ということなのですが、なんだかそれととっても似ていますね。
市村:本当に似ていますね。ということは、これはやっぱり真理なのだと思います。そういうふうに、人生や仕事を楽しむ人たちが増えればいいと思いますね。
(構成:長山清子、撮影:尾形文繁)
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