デブリ取り出しを焦ると廃炉作業は行き詰まる 専門家が提言する福島第一原発の廃炉のあり方

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日本原子力学会の廃炉検討委員会委員長を務める宮野廣氏は「やみくもにデブリ取り出しを進めるべきではない」と訴える(撮影:今井康一)
福島第一原子力発電所の事故から10年が経過しようとしている。
国や東電の計画では廃炉作業を30~40年で終了させるというが、原子力の専門家からは、その実現性を危ぶむ声が上がっている。東芝で原子力技師長を務め、原子炉の構造を熟知する宮野廣氏がその1人だ。
宮野氏が委員長を務める日本原子力学会・福島第一原子力発電所廃炉検討委員会は2020年7月、「国際標準からみた廃棄物管理」と題した報告書を公表。そこでは、国や東電が福島の地元関係者との協議を踏まえたうえで廃炉終了後の福島第一原発の跡地の「エンドステート」(最終的な状態)を設定することが急務であることや、放射性廃棄物廃棄物の抑制対策の重要性が指摘されている。
また、宮野氏自身は、国や東電が進めようとする燃料デブリ取り出しの方法について、必ずしも適切でないとして警鐘を鳴らしている。
福島第一原発の廃炉の進め方はどうあるべきか。宮野氏に聞いた。

廃炉作業は事実上手つかず

――事故から10年が経過します。

がれきの片付けや汚染水の発生抑制などの対策はずいぶん進んだ。他方、肝心の燃料デブリのありかや状態は分かっていない。その意味では、廃炉作業そのものは手つかずの状態だ。

――経済産業省や東京電力は、デブリ取り出しを含む廃炉を事故から30~40年で終わらせるとしています。

日本原子力学会では2020年7月に報告書「国際標準からみた廃棄物管理」を公表した。廃炉のエンドステート(最終形)の方向を決めて取り組むべきだというのが私たちの意見だ。そのために国や東電は地域住民も含め関係者間で議論を重ねるべきだ。それをせずに、やみくもにデブリの取り出しを進めようとしても途中で行き詰まる。

みやの・ひろし/1971年東芝入社。原子力技師長などを歴任。2009年から2019年まで法政大学大学院客員教授。2014年から現職。日本保全学会顧問(撮影:今井康一)

――報告書では、「即時解体・全撤去」や「安全貯蔵・部分撤去」など4つのシナリオが提示されています。

安全貯蔵の場合は、廃炉作業に取り組む時期は遅くなる一方、年月を置くことで放射能の減衰が想定できるため、放射性廃棄物の発生量を大幅に減らせる。ただ、廃炉作業は30~40年でなく100年スパンでの取り組みとなる。

――宮野さんは、国や東電が検討している格納容器横からの気中でのデブリ取り出しについても疑問をお持ちです。

燃料の密度が濃い炉心(圧力容器内)に残っているデブリを取り出すことが最も重要だ。炉心から溶け出して格納容器の底部に落ちたデブリはコンクリートと混ざり合って非常に硬い状態になっている。削り出す際に放射性物質が外部に飛散する可能性がある。最優先で手を付ける必要はない。

それよりも除染を徹底的にやったうえで、格納容器の上のほうから順番にデブリを取り除くほうが合理的だ。格納容器のすき間にシール材を貼るなどして損傷部分を補修し、水中で、または散水しながら取り出すことができれば、放射性物質の飛散を防止できる。

岡田 広行 東洋経済 解説部コラムニスト

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おかだ ひろゆき / Hiroyuki Okada

1966年10月生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒。1990年、東洋経済新報社入社。産業部、『会社四季報』編集部、『週刊東洋経済』編集部、企業情報部などを経て、現在、解説部コラムニスト。電力・ガス業界を担当し、エネルギー・環境問題について執筆するほか、2011年3月の東日本大震災発生以来、被災地の取材も続けている。著書に『被災弱者』(岩波新書)

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