震災10年「使命果たせなかった放送局」後悔と今 データから浮かび上がる災害報道に必要なこと
東日本大震災と原発事故報道におけるこれらの教訓は、どれも災害報道の使命から逸脱したことが原因だ。国民の生命と財産を守るために迫り来る危機を事前に察知して伝えるという防災機関としての役割だが、それを果たせなかった放送メディアに対する批判は厳しいものがあった。
震災後、放送各局は避難の呼びかけとヘリの運用を大きく見直した。NHKは、津波警報が出されたときの避難の呼びかけを、「逃げて!」と強い言葉で表現するように改め、CG表示なども全面的に見直しを図った。また、民放各局もそれに追随した。
民放は、ヘリの運用も系列を超えて見直した。来るべき首都直下地震を見据えて、キー局が保有する2機のヘリのうち1機を持ち回り(テレビ東京を除く)で筑波へリポートに常駐させることにした。江東区新木場にある東京へリポートが津波でやられる、あるいは首都直下地震で使用できなくなった場合に備えての運用である。
また、2019年5月には名古屋の民放4局が、南海トラフ巨大地震に備えてヘリによる共同取材協定を結んだ。「名古屋モデル」と呼ばれるこの方式は、愛知から三重にかけて広い海岸線を連携してカバーすることで、「一人でも多くの命を救う」放送を行うことで各局が一致した画期的なものである。
東日本大震災に匹敵する熊本地震の報道量
災害報道の変化に戻って、今度は「地震」というキーワードの変化を見ていく。2011年の東日本大震災、つまり東北地方太平洋沖地震による報道が落ち着き始めた「地震」に関する報道が、東日本大震災並みに増えたのが2016年である。
2度にわたる震度7を記録した熊本地震の報道は、「地震」のキーワード抽出で約3万8000件に上り、東日本大震災に匹敵する量となった。
2016年4月14日に発生した熊本地震は、2日後の16日にも再び震度7を記録する。一連の地震活動において震度7が2回観測されたのは、気象庁が現在の震度階級を制定して以来、初めてのことである。
この一連の地震において、系列各局は熊本に応援部隊を送り込んだ。そのため、2回目の本震が起こったときには大勢の取材クルーが熊本周辺に滞在しており、震度7の揺れを経験するとともに、揺れの様子を記録し放送している。震度7の揺れが記者の体感とともに映像に記録された貴重な震災報道である。
地震報道に関しては、熊本地震から約2年後の2018年9月6日に、北海道胆振地方で同じく震度7を記録した地震が発生した。この「地震」による報道量も2万件を超えるものであった。
2010年代は、最大震度7を記録する地震が3地域で発生するという、地震大国日本を象徴する年代となったのである。
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