日本の「ミャンマー宥和外交」は機能しているか 今こそミャンマーとのパイプを機能させよ

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アジア各国の政府は日中をてんびんにかけている。民主化や人権を問題にしない中国に接近して、インフラ建設などの支援を取り付ける一方、日本にも秋波を送り、人権問題に関心の高い欧米の露払いとして利用する。1989年の天安門事件で、欧米の制裁網に包囲された中国が日本に接近を図ったように、である。

ロヒンギャ迫害に関する日本政府の対応は、スーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)政権や軍を含め、ミャンマーの人口の7割を占めるビルマ族の多数から支持されたとみられる。国際的な孤立感をやわらげたからだ。しかし、今回のクーデターでは国民の圧倒的な多数が軍の暴挙に反対している。民政移管で投票や言論の自由を知った国民は、軍政時代の感性には戻らないだろう。

国軍に広がるデモへの戸惑い

今回のデモは、学生が主体だった1988年や僧侶が中心を担った2007年と雰囲気が違う。公務員や医療関係者にも広がる不服従運動は経済にダメージを与えつつあり、国軍も戸惑っているようにみえる。ここにきて武器使用による弾圧を強めているのは、国際的な批判を浴びようとも他に落としどころを見つける術を知らないためだ。

日本政府は長年培ったというミャンマーとのパイプを今こそ機能させるときだ。軍を兵舎に戻し、スーチー氏らを無条件に解放し、国会を開会させるべきだ。軍のメンツもあり、それができないのなら、先の総選挙の票を数え直し、有権者名簿を確認する作業を国際的な監視下で行い、選挙結果を確定させると提案してはどうだろう。あるいはスーチー氏らを解放し、半年以内に改めて国際監視の下で自由な総選挙を実施する。

国軍がのめないなら、「選挙不正」というクーデターの理由は権力奪取の方便にすぎないことが明らかになる。軍がこのまま居座り、大量の流血が続くならば、民主化支援を名目に多額の援助をつぎ込んだ日本のミャンマー外交は失敗だったという評価を免れない。

対話するだけで状況を変えられないのなら、それは茶飲み話にすぎないし、現場の外交官が心地よく任期を過ごせる以上のメリットはない。

パイプの目詰まりが明らかになったなら、選択肢は2つに1つしかない。非道な国軍につくのか、それともミャンマー国民の側に立つのか。日本政府は速やかに旗幟を鮮明にする必要がある。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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