山田氏隠しで逆ギレ、菅降ろし「土石流化」も 菅首相のトップリーダーとしての資質に疑問符

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総務省や農林水産省で幹部職員が接待を受けたことについて、菅首相は「行政に対する国民の信頼を大きく損なうことであり、極めて残念だ」と殊勝な表情で語った。そのうえで、自らの政治責任については「徹底して国民の期待に応えられることができるように対応していかなければならない」と述べた。

そこで問題となったのが、菅首相の最側近で特別職公務員の山田前広報官の進退や処分だった。自民党の世耕弘成参院幹事長は26日、「国会でのやりとりを見ている限りは、政策が曲げられたことは出てきていない。今後、総務省がよく検証する意味で、辞任する必要はない」と続投に理解を示した。ただ、多くの与党幹部からは「辞任は避けられない。傷口が広がらないうちに辞任させるべきだ」との声が相次いだ。

傷口が広がってからの広報官辞職

国会での度重なる追及に対し、山田前広報官への風当たりも倍加した。山田氏の「私は絶対に飲み会を断らない女」という動画がネット上に拡散し、「#断らない女」がトレンド上位入りした。さらに、森喜朗元首相の女性蔑視発言の際に注目を集めた「#わきまえない女」が、今度は山田氏に絡めて「#わきまえる女」がトレンド入りする事態ともなった。

そうした中の山田氏の辞職は「まさに、傷口が広がってからの辞職」(自民幹部)となった。菅首相は1日の集中審議で改めて陳謝したが、表情はいつも以上に暗さが目立った。最側近の山田氏を失い、今週後半にも予定される公式記者会見はさらに注目される。後任の広報官も、簡単に質疑の打ち切りとか、再質問禁止とは言えなくなるとみられている。

政権の巻き起こしたドタバタ劇にもかかわらず、2021年度予算案は3月2日に衆院を通過、年度内成立が確定する。官邸サイドからも「山田氏辞職で一件落着」(政府筋)との楽観論も出る。しかし、今回の混乱で、「菅首相のトップリーダーとしての資質に疑問符がついた」(自民長老)のは否定できない。

「モリカケに今度は菅の親子丼」という川柳が大手紙に載り、永田町でも話題となった。菅首相が苛立つ身内の不祥事だが、「コロナ禍のなかで国民の不満をさらに拡大させる状況ともなれば、間近に迫る衆院選をにらんでの自民党内の菅降ろしに火が付く」(自民長老)のは避けられそうもない。

泉 宏 政治ジャーナリスト

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いずみ ひろし / Hiroshi Izumi

1947年生まれ。時事通信社政治部記者として田中角栄首相の総理番で取材活動を始めて以来40年以上、永田町・霞が関で政治を見続けている。時事通信社政治部長、同社取締役編集担当を経て2009年から現職。幼少時から都心部に住み、半世紀以上も国会周辺を徘徊してきた。「生涯一記者」がモットー。

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