「周遊券」の旅、現代の割引切符で再現できるか 国鉄時代に存在した便利な切符はほぼ姿を消す

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各社の割引切符を選ぶ際のポイントも記しておこう。まずは利用できる列車を把握する。

① 特急列車含めて乗り放題
② 特急券を購入すれば特急列車も利用できる
③ 普通列車限定

この3種類があるので、その条件をよく理解して利用したい。

意外な落とし穴は発売期間である。たとえば「四国再発見早トクきっぷ」は利用当日の販売はせず、前日までに購入しなければならない。そのため、東京から夜行バスで四国入りしてすぐに利用することなどはできない。かといってこの切符はJR四国の駅以外では購入できないので、上記のプランは成り立たないのである。

鉄道パスを使っての旅をいいプランにするためのコツがある。たとえば「姫路城と四国の金毘羅山へ行きたい、時間があれば彦根城にも寄りたい」という希望があり、それが可能な割引切符はないだろうか? と考えるとなかなかいいプランにならない(国鉄時代は周遊券で簡単にできた)。

思い描いたような鉄道旅行にするためには、使えそうな割引切符を選択し、「その切符で何ができるか?」という順番で考えることだ。そのほうがコストパフォーマンスの高いプランとなる。これが現代の特徴だ。

国鉄時代の周遊券と違い、現在の割引切符は鉄道会社間の連携が希薄なため「ニーズに合わせている」というより、自社でできることのみを行っている感じなので、需要のありそうな旅行形態と、実際の割引切符のルールにずれがあることも否めないのだ。

鉄道旅行がしにくくなった理由

鉄道会社が細分化された現在「日本を鉄道で旅行する」ということがしにくく、ある種もったいなさも感じる。鉄道はネットワークが大切で、それがないと周遊券のような切符は威力を発揮できない。かつての周遊券の種類を眺めると、日本の観光地をうまく網羅しており、現在もこういったものがあれば、各地域の観光キャンペーンなどもやりやすかったのではないかとも感じる。

ローカル線の衰退も影響している。北海道ワイド周遊券では、苫小牧から日高本線で様似へ、国鉄バスに乗り継いでえりも岬を訪ねた。さらに国鉄バスで広尾を目指し、広尾線で帯広へ出るルートは周遊券1枚で事足りた。鉄道ファンに限らず、当時、周遊券を使った旅行者の定番ルートだった。

しかし、現在このルートは沿線の過疎化や自然災害などから鉄道はほとんどない。鉄道維持が困難であるのは事実だが、公共交通でえりも岬を訪ねる人が激減しているであろうことも事実だ。

また、仮に長崎新幹線ができて東京から長崎まで新幹線でつながったとしても、現状の切符では、東京在住の人が長崎新幹線を利用する機会が「どれだけあるだろうか?」と思ってしまう。東京から九州へ新幹線を利用する人は少ないであろう。その理由として航空機の発達、LCCの台頭などが挙げられるが、なかには「どうせ九州内は陸上交通を利用するのだから、片道くらいは新幹線を利用したい」という需要だって少なくないはずである。しかし、それを叶えてくれる切符がない。上手にお得に利用できるとしたら、外国人専用の「ジャパンレールパス」ぐらいで、日本という国単位で考えると、鉄道旅行内需が拡大できない構造なのである。

谷川 一巳 交通ライター

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たにがわ ひとみ / Hitomi Tanigawa

1958年横浜市生まれ。日本大学卒業。旅行会社勤務を経てフリーライターに。雑誌、書籍で世界の公共交通機関や旅行に関して執筆する。国鉄時代に日本の私鉄を含む鉄道すべてに乗車。また、利用した海外の鉄道は40カ国以上の路線に及ぶ。おもな著書に『割引切符でめぐるローカル線の旅』『鉄道で楽しむアジアの旅』『ニッポン 鉄道の旅68選』(以上、平凡社新書)などがある。

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