乙武洋匡「万人に求められる人になる必要ない」 高濱正伸と語り合った教職、子育て、教育論
乙武:私からのメッセージって、おそらく日ごろから高濱先生が口を酸っぱくしてみなさんにお伝えしていることと重なると思うのですが、せっかくの機会なので、私なりのエピソードでお話をさせていただきますね。
私の小さな友人に、小学6年生の夏休みの時点で単身バルセロナに渡り、そこでホームステイしながらサッカーの武者修行を始めたという子がいるんですよ。これね、その子もすごいけど、親御さんもすごいなと思うんです。よく送り出したなと。普通ね、もしも小6の息子が「秋からバルセロナに住んでサッカーやりたい」と言いだしたら、「なにバカなこと言ってるの。早く宿題しなさい」で終わる話だと思うんですよ。
この件、自分ごと、自分の家庭で起こったこととしたら、「わかった、頑張りなさい」と送り出せるのか、「いやいや、ちょっと待って」と止めるのか。まあ日本の一般家庭だと、九割八分は止めると思うんですよね。
子どもにリスクを背負わせることになるのか
じゃあ、なぜ止めるのか。子どものことが憎いからなのか。子どもの夢を妨げたいからなのか。違いますよね、心配だからです。子どもにリスクを背負わせたくないからですよね。でも、よく考えてみてほしいのです。いまの時代、小学生のころからバルセロナで単身サッカー修行することが本当にリスクになるんでしょうか。
まず、親が止めるケースから考えてみましょうか。たいして好きでもない勉強を無理にさせて、せめて高校まで、せめて大学まで行かせますよね。それで就職できると思います? できるかもしれない。だけど、できないかもしれない。だっていま4年制大学を出たって就職先が見つからず、就職浪人する子たちが年間4万人いると言われているんですよ。本人が好きでもない勉強をさせたところで、就職できるかわからないわけですよ。これだってリスクはあるわけです。
今度は、親が送り出した場合を考えてみましょう。サッカー選手になれるかは、正直わからない。まあ、なれない可能性のほうが大きいですよ。で、なれなかったとしましょう。でも、小6からスペインにいたらスペイン語はペラペラですよね。それから同じ夢を持って世界中から集まった仲間がいるので、世界中にネットワークができています。
そして何より小6から親元を離れて異国の地で暮らすバイタリティがあるわけでしょう。もう絶対に心配いらないです。食いっぱぐれる心配もない。日本の有名企業に就職できるかはわからないですけど、世界のどこかで誰かに求められる人材にはなりますよ。大事なのは国内の有名企業に勤めることじゃなくて、自分の力でメシを食っていくことですよね。
高濱:そうです。