アメリカを悩ませる日本が抱える2つの大問題 アジアで起こっている事態にアメリカやきもき

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「慰安婦」問題では、文大統領は2015年の合意の有効性を肯定しながらも、それを回復するための方策はいまだ何も実施していない。韓国政府は、日本が出資し、慰安婦の3分の2に補償金を支給していた「和解・癒やし財団」の凍結に動いている。

戦時強制労働者問題は、はるかに複雑な法的問題であり、韓国の裁判所が日本企業の私的資産を実際に清算する挙に出た場合、それは日韓関係が危険な「越えてはならない一線」を踏み越えてしまうことになる。日本政府は、裁判所の判決が出されて以来、この問題は1965年の条約で解決されたと主張しているが、この条約では限定的な補償が規定されており、請求をめぐる紛争は仲裁委員会で解決するという規定も含まれている。

菅首相が関係改善に動く可能性は

この問題を解決するための方策は、数カ月前からいくつか提案されている。その中の1つには、韓国のベテラン政治家が提案し、20年前にドイツが取った施策と同じように、日韓の企業双方が出資して財団を作り、戦時強制労働者に補償金を提供するという提案も含まれている。非公式には、韓国と日本の両国でこの案に関心を示す向きがあり、アメリカの当局者もこうした議論を熟知していて、解決に向けて支援を申し出る可能性もある。

しかし、それには両国政府が問題を解決しようとする政治的意志を示すことが必要であり、現時点ではそのような意志は示されていない。

「菅首相は9月に行われる自民党の総裁選で再選するか、今年行われる総選挙で勝利する前に、こじれた日韓関係の解決に乗り出すリスクを取らないだろう」と、日韓関係に長年関わっている重鎮のユ・ミョンファン元韓国外交通商部長官は話す。

菅首相の側近は、文大統領が本当に行動する準備ができているのか、仮に行動したとしても韓国国内の政治的圧力に屈して、また態度を豹変するのではとの懐疑的な見方を示し、日本側は「韓国側が再び最終着地点を動かす可能性」に懸念を示している。

バイデン政権にとって、こうした問題の解決に関わることは、インド太平洋地域のパートナーシップ構築と同盟関係の復活という壮大なビジョンを、いかにしてそれぞれの国の国内政治のしがらみを乗り越えて築いていくかを学ぶための早い時期の教訓ともなる。

ダニエル・スナイダー スタンフォード大学講師

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Daniel Sneider

スタンフォード大学ショレンスタインアジア太平洋研究センター(APARC)研究副主幹を務めている。クリスチャン・サイエンス・ モニター紙の東京支局長・モスクワ支局長、サンノゼ・マーキュリー・ニュース紙の編集者・コラムニストなど、ジャーナリストとして長年の経験を積み、現職に至る。

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