社員のクチコミと企業業績・株価との深い関係 「体質」「古い」「年功序列」は業績悪化のサイン?

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一方で、負債比率が増加している企業群(組織状態が良い水準にあったが、悪化した企業群)独自のものとしては、「人間」「関係」という単語が頻出していた。人間関係に対する悩みがクチコミとして増えているときは要注意である。

組織文化が悪化すると株価にも悪影響を及ぼす

続いて組織文化スコアと株式パフォーマンスについての研究結果を紹介したいと思う。組織文化スコアの改善幅に応じて企業を順にAからEの5つのグループに分け、そのグループごとの株価の推移を表したのが、下記の図である。

グラフを見ると、企業群Aと企業群Eの株価パフォーマンスは時間とともに大きく開いていく。その要因を調べるために株式の要因分析に広く利用されるFama-French 3ファクターモデルによる要因分解を行い、通常知られている要因(=ファクター)によって「説明できない要因(=α)」が存在するかを調べている。

α(年率)の数値はこれまで知られていない要因によって得られた正味の株価リターンであり、A-Eは、組織文化が改善したポートフォリオを買い、組織文化が悪化したポートフォリオを売るようなポートフォリオにて得られる正味の株価リターンを表す。

その結果を表に示した。この結果を見ると、AとEのロングショート・ポートフォリオ(Aのグループを買い、Eのグループを売る)ではαが統計的に有意となり正の超過リターンが示されている。また、Eの組織文化スコアの年次変化率の悪い企業群では、統計的に有意な大きな負の超過リターンが出ている。

つまり、組織状態を大きく悪化している企業は、将来株価パフォーマンスにも悪影響を及ぼす可能性が高いということを示した研究内容となっている。

なお、この結果からもわかるように、社員クチコミから算出された組織文化スコアは、実際に金融機関の株式投資の材料の1つとして使われることもある。ここで登場する組織文化スコアを活用したスコア、「VCPCクチコミインデックス」もその1つとして有名である。

今回は学術的に証明され、権威ある賞も受賞した論文から、噛み砕いた内容を皆さまにお伝えした。紹介した論文は、Web上で公開されているので、興味を持たれた方は、ぜひご一読いただきたい。ここで紹介した内容以外にも、多くの研究結果・考察が記載されている。

業績パフォーマンス指標をみて、就職・転職先を探したり、投資先を探すことも大切である。その一方で、業績パフォーマンスと大きな関係があると証明されている組織文化に目を向けてみることがあなたの人生を豊かにするかもしれない。これからそういった機会がある読者の方には、手前味噌ではあるが当社のような社員クチコミサイトを一度覗いてみることをおすすめしたい。

大澤 陽樹 オープンワーク 代表取締役社長

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おおさわ はるき / Haruki Oosawa

1985年生まれ。東京大学大学院卒業後、リンクアンドモチベーション入社。中小ベンチャー企業向けの組織人事コンサルティング事業のマネジャーを経て、企画室室長に就任。新規事業であるインキュベーション(ベンチャー投資)事業やモチベーションクラウド事業の立ち上げ、経営管理、人事を担当。2019年11月オープンワーク副社長。2020年4月より現職。2022年12月、東証グロース市場に上場。

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