日産が「アップルカー生産」を否定しない理由 工場の稼働率向上狙い、「協業の可能性」に含み
アップルが手がけるスマートフォンやパソコンと異なり、自動車には高い安全性能が求められる。EVですら2万点に及ぶ部品の調達が必要で、自動車の量産にはノウハウと莫大な投資が求められる。EVで自動車業界の先頭を走るアメリカのテスラですら、一時は量産化に苦しんで倒産寸前に追い込まれたほどだ。
iPhoneの生産をすべて外部に委託する「水平分業」を採用し、成功を収めているアップルが既存の自動車メーカーと組むのは自然な動きであると言える。
日産がアップルと組む「メリット」
日産にとってもアップルカーの生産受託にメリットがないわけではない。日産は世界初の量産型EV「リーフ」を世界で50万台以上販売。2021年夏には多目的スポーツ車(SUV)のEV「アリア」を投入し、アライアンスを組む三菱自動車とは軽自動車EVの開発に着手している。
高いブランド力を持つアップルのEVが世の中に行き渡れば、EVの普及に大きな弾みとなる。加えて、日産はカルロス・ゴーン元会長時代に生産設備を大幅に拡充し、余剰な生産能力を抱えている。アップルカーの製造を受託すれば、こうした生産設備の稼働率を高められる。
日産の業績は厳しい。2021年3月期の最終損益は5000億円を超える大幅な赤字となる見通しだ。スペインやインドネシアの生産工場の閉鎖などの経営再建に取り組んでいる最中であり、仮にアップルからの打診があればまさに渡りに船と言える。
ただ、アップルと組むには課題もある。ブルームバーグ・インテリジェンスの吉田達生シニアアナリストは「仮に生産受託で合意したとしても、当初より量産台数のボリュームが増えると、生産設備の投資にも絡んでくる。(日産がアップルと)長期的かつ安定的に関係を築けるのかが見えにくい」と指摘する。
CASE時代が本格化すると、自動運転システムの開発で日産とアップルは競合関係になりうる。アップル側が技術の開示を拒み、製造受託のみを求めるのなら、日産は単なる自動車組み立てメーカーに過ぎなくなる。
「日産としての価値を示すことに専念していく」。9日の会見で内田社長はこう強調した。アップルとの関係で、日産がその価値を示せるのか。発言の真意は内田社長の胸の内のみにある。
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