新型ノート「初期受注2万台」が微妙である訳 高価格帯にシフトした日産の戦略は成功なのか

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今回のフルモデルチェンジでは、プラットフォームとパワートレインが一新されている。デザインも、昨年に公開した日産の新フラッグシップEV「アリア」と同じ路線のものとなった。

「アリア」はEV(電気自動車)のSUVでおよそ500万円からの価格帯となる(写真:日産自動車)

走りはパワフルになって、静粛性も向上。乗り心地もよりしなやかになり、先進運転支援システムもカーナビゲーションとの連携機能を追加するなど、しっかりと進化させている。ドアの開閉音や、各種警告音の音質にもこだわり、高品質感を高める努力も行われた。

外見だけが新しくして、中身のプラットフォームやパワートレインは古いままという、残念なフルモデルチェンジではない。サイズ感こそ先代と大差ないが、中身がまったく新しくなっており、まさにフルモデルチェンジと呼ぶにふさわしい、久々に日産の本気を感じさせる内容であったのだ。

しかし、そんな新型ノートにも課題がある。まず、大きな問題はユーザー層の高齢化だ。

若年層にアピールできる魅力は備わるか

なんと、新型ノートの購入者の約半数が60代以上だという。具体的には70代以上が20%、60代が30%ほど。一方、30代以下は15%程度にとどまる。とはいえ、この年代構成は、先代モデルとあまり変わっていないという。つまり、必要なのが若年層の拡大だ。

これは、日産側も課題ととらえているようで、今後は、若者向けのコミュニケーションを考えているという。すでに、より上質なモデルとした「AUTECH」が用意されているが、きっと「NISMO」など、スポーティなグレードの追加もあることだろう。

カスタムカーとしてラインナップされる「AUTECH」(写真:日産自動車)

もうひとつの懸念は、半導体不足だ。世界的な半導体ニーズの高まりにコロナ禍での供給遅れが重なり、自動車用の半導体不足という問題が発生しており、日産も生産調整が実施されている。

この半導体不足が解消されなければ、新型ノートの販売が伸びることはない。とはいえ、「数を追い求めない」への変更は、生産数が絞られるという苦境には、たまたまとはいえ悪くない路線だ。

ただし、クルマの魅力度が下がれば、販売台数は簡単に落ちてしまうもの。ましてや、ハイブリッド専用車となった新型ノートは、低価格を売りにすることはできない。すでに2020年度内発売予定として4WDモデルの発売がアナウンスされているが、スポーティグレードの追加や運転支援システムの進化など、継続的なブラッシュアップが欠かせないだろう。

初期受注の2万台という数字は微妙なものだが、今後の展開次第ではライバルを超え、再び年間販売ナンバー1の座を奪取できるポテンシャルは持っているといえる。

鈴木 ケンイチ モータージャーナリスト 

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すずき けんいち / Kenichi Suzuki

1966年生まれ。茨城県出身。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。レース経験あり。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。

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