世界は五輪組織委会長の後任人事をどう見るか 女性の地位向上は政府も経済界も掛け声ばかり

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東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は、12日午後開いた理事会・評議員会の合同懇談会で、女性蔑視とも受け取れる発言の責任を取る形で同日付で辞任する意向を表明した。後任には日本サッカー協会相談役でJリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏の名前がいったん浮上したが、選任過程が不透明との批判などから本人が受け入れを辞退し、次期会長人選の見通しは立っていない。

武藤敏郎事務総長は懇談会後の会見で、「会長選任は国民にとって透明性のあるプロセスでなければならない」と指摘。後任は「早急に決める必要がある」とし、候補者検討委員会を設置することを明らかにした。委員長はキヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長最高経営責任者(CEO)とする。

後任会長に求められる資質について武藤氏は、開催まで時間的なゆとりがないため、五輪に関わる経験を持ち「ダイバーシティーの認識が高い方」との見解を示した。今後理事会・評議員会の女性比率を高めていく方針も明らかにした。

新型コロナウイルス感染拡大の中、半年を切った五輪開催に向け、安全な大会運営への重責を背負う次期会長に残された時間は多くない。

森氏は午後3時から開かれた懇談会の冒頭、「私の不適切な発言が原因で混乱してしまった」として、「多くの皆様にご迷惑かけて申し訳ない」と陳謝した。また7月の五輪の準備に「私が妨げになってはいけない」と辞任を決意した理由を説明、11日に国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話で会談し、ねぎらいの言葉をもらったと話した。

組織委の武藤氏は、森氏が辞任後も役職に残る話は現時点では出ていないと述べた。ただ、森氏からの支援を望む声もあるとし、今後検討しながら適切な結論を得ることになるとしている。また川淵氏は会長職を求められても辞退すると表明したという。

後継候補を巡っては、橋本聖子五輪相が浮上したと共同通信が報じた。橋本氏は同日の衆院予算委で、「報道は承知していない。組織委の合同懇談会の場でしっかりと議論される」と述べるにとどまった。加藤勝信官房長官は会見で、後任の人選について、透明性のある形で進めてほしいと述べた。

IOCのバッハ会長は12日の声明で「森氏辞任の決定を全面的に尊重し、その理由も理解する」と表明。五輪を2021年に安全かつ確実に行うため「後任者と協力して取り組む」と述べた。またIOCは、組織委が適正な手続きにより次期会長を決定することを歓迎するとしている。

森氏(83)の発言を巡っては海外メディアが批判的に報じたほか、東京五輪のワールドワイドパートナーのトヨタなどスポンサー企業が遺憾の意を表明。IOCも発言は「完全に不適切」との声明を改めて発表するなど外堀は埋められつつあり、数百人規模で大会ボランティアが辞退を申し出るなど影響が広がっていた。

森善朗氏(2月4日)

組織委やIOCは7月の開催に向け、受け入れ観客数を含め新型コロナ対策を盛り込んだ詳細な運営計画を策定する重要な時期にある。

東京都の元職員として2016年の東京五輪招致に関わった国士舘大学の鈴木知幸客員教授は、会長交代による五輪への影響は実際には「ほとんどない」とみている。延期に伴う施設の再契約やスポンサー交渉などは大変だったが、「これから先は交渉ごとがほぼ残っていない」ためだという。

森氏の後任候補に浮上した川淵氏(84)は、今回の東京五輪の選手村の村長や組織委の評議員を務めているほか、1964年の東京五輪にサッカー日本代表として出場経験があり、93年に開幕したJリーグの創設にも尽力した。

ヒューマン・ライツ・ウオッチの土井香苗日本代表は「これだけのことが起きても女性が会長にならないのは、本気で改革しようとしてないとの疑念」が生じると批判していた。日本オリンピック委員会(JOC)の元参事でスポーツコンサルタントの春日良一氏も、女性会長が誕生しないのは日本のスポーツ界の問題であり、今後の課題にすべきだと指摘した。

行動がすべて

政府は20年代の可能な限り早期に指導的地位にある女性の割合を30%程度とすることを目標に掲げている。経団連は30年までに企業役員の女性比率を30%以上とする方針を打ち出した。ただ政府は当初20年度までにとしていた達成時期を先送りし、経団連も原案では40%だった比率を引き下げている。

元米五輪サッカー代表選手で米パシフィック大学のジュールズ・ボイコフ教授は「組織委が誰を後任会長に選出するにせよ、その人選は男女平等に関して組織委がどう考えているかのメッセージとなるだろう」と指摘。その上で「高齢の男性が再び選ばれるならば、それがすべてを物語る」ことになると述べた。

上場企業の女性役員の割合を30%に増やすことを目指して活動する「30%クラブ」のアン・ケアンズ代表も「言葉ではなく行動がすべてだ」とした上で、世界的な新型コロナの大流行に対処する中で、「五輪は多様性受け入れを体現するものであり、希望と士気を構築するため男女のスポーツはこれまで以上に重要になっている」とし、組織委の理事会にも適した男女のバランスが求められるとしている。

国士舘大の鈴木氏は「森さんが辞任した後、完全に辞任するのかがポイントだ」と指摘する。名誉職で残った場合、反発が収まらず、開会式のスタンドにいる森氏に対して何らかの行動を起こす選手や開会式をボイコットする選手もいるかもしれないと懸念する。森氏には「完全に去っていただくのが五輪開催の条件になる」と述べた。

(組織委の会見やIOCの声明を追加して更新しました)

著者:萩原ゆき、古川有希

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