先進国「ワクチン独り占め」で実は損する構造 経済への影響はブーメランのように跳ね返る

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ところが、北アメリカとヨーロッパの最も豊かな国々は製薬大手と供給契約をがっちりと結び、ワクチン供給の大部分を独占してしまった。その量はこれらの国々の総人口の2〜3倍に接種できるレベルに達しており、おかげで貧しい国々はワクチン確保に四苦八苦させられている。

バングラデシュ、タンザニア、ペルーなど、多くの途上国がワクチン接種を完了させられるようになるのは2024年以降になるとみられる。

どんなに豊かな国も経済損失免れない

貧困国の多くは、歳入のほとんどが債務の返済に消え、医療に回せる財源が乏しい状況でコロナ禍に突入した。これを受けて20カ国・地域(G20)は貧困国の債務返済を一時的に猶予するプログラムを立ち上げたものの、民間債権者はプログラム参加を拒んでいる。世界銀行と国際通貨基金(IMF)も大規模な救済策を約束したが、金額的に大したものとはならなかった。

こうした状況は、アメリカの政権交代を受けて変化しつつあるように見える。バイデン大統領の就任によって、国際機関には希望が広がっている。それでもなお途上国支援は、アメリカの首都ワシントンや欧州連合(EU)が本部を置くブリュッセルでは「道徳上の問題」という認識にとどまっている。

今回の研究は、このような認識に再考を迫るものだ。途上国の人々にしっかりとワクチンを届けなければ、豊かな国々のリーダーは自国の経済を傷つけることになる、というのがその結論だからである。

国際商業会議所のジョン・デントン事務総長が言う。「どれほどの経済大国であっても、パンデミックが全世界で収束するまで新型コロナの影響を免れられる国はない。途上国に対するワクチン支援を、豊かな国々による施しと考えてはならない。これは、自らの国の経済復興に欠かせない投資なのだ」。

(執筆:Peter S. Goodman記者)
(C)2021 The New York Times News Services

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