国交省の中間報告書は次のように綴っている。
北陸新幹線の建設を担当する鉄道・運輸機構大阪支社は、2019年秋の時点で敦賀駅工区に5カ月程度の遅れが発生し、土木JVから遅延回復が困難である旨が伝えられていたが、開業時期ありきの考え方に起因する甘い見通しの工期設定に基づき、作業員・資機材の増強により2022年度末の開業に間に合うと本社に報告していた。(要約)
その後も、鉄道・運輸機構本社には工事遅延の実態が伝わらなかった。
2019年12月には、大阪支社において土木工事の工期を当初の2020年7月から2022年2月まで約20カ月延長する契約変更がなされたが、支社から本社に対しては、信通機器室工事の追加に伴うものと報告しており、この時点においても本社は5カ月程度の遅れという認識で、土木工事の大幅な遅延について認識できていなかった。
2020年1月に建築JVとの工事契約を締結したが、その際、土木工事が大幅に遅延していることは建築JVには伝えられていなかった。このため2月に土木JV、建築JV、大阪支社で協議を開始したところ、土木工事の遅延の回復に資するものと想定していた土木工事と建築工事の同時施工が困難であることが判明したが、大阪支社は、建築工事と電気工事の同時施工等により2022年度末の開業に間に合うと本社に対し報告していた。(要約)
なぜ適切な時期に工程の見直しができなかったのだろうか。整備新幹線は今まで開業延期をしたことがなかったというのも大きな要因かもしれない。成功体験を前提に問題を先送りし続けた結果、いよいよ行き詰まった段階で本社や国、自治体に「戦況」が伝えられることになったのである。
「遅れた後」の対応が重要
工事の遅れを早い段階で正確に認識していれば、実効性のある対策を取ることができたかもしれない。それでも工事が遅れてしまうのであれば次善策を打つことができたはずだ。だが、実際にはクリティカルパスである敦賀駅の工事が間に合わないのに、別の工区では2022年度末の開業に向けて急速施工を行うなど、事業費の浪費も積み重ねられていった。
国交省は昨年12月、鉄道・運輸機構に対し業務運営の抜本的な改善に関する命令を行った。これを受け機構は1月29日、工程管理・事業費管理の体制やルールの見直し、関係自治体等との情報共有の拡充を軸とする改善措置を発表した。
工事は遅れるものである。だからこそ、その後にどんな対応をするかが重要になる。芳賀・宇都宮LRTと北陸新幹線の事例は、新線建設の難しさとともに、マネジメントの重要性を私たちに教えてくれている。
著者フォロー
フォローした著者の最新記事が公開されると、メールでお知らせします。
ログインはこちら
著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。
えだくぼ たつや / Tatsuya Edakubo
1982年、埼玉県生まれ。東京地下鉄(東京メトロ)勤務を経て2017年に独立。鉄道ジャーナリスト、東京の都市交通史の研究などで活動する。
ログインはこちら