個人投資家のヘッジファンド攻撃が示すリスク 個人マネーが市場のボラティリティを高める
金融市場における個人投資家の影響力の拡大は、この先どんな影響を及ぼすのだろうか。先週のゲームストップ株の取引に始まったアメリカの個人投資家によるヘッジファンドへの攻撃は、今週に入って対象が銀のETF(上場投資信託)にも及んだ。足元では個人投資家も損失を抱えたことで、いったんは収束しつつあるが、いつ再燃してもおかしくない。
取引自体はシンプルなもので、ヘッジファンドが空売りをしている銘柄に対し、個人投資家がSNSを通じて買いを呼びかけ、大勢の個人投資家がこれに応じて買いを仕掛けるもの。ヘッジファンドは空売りした銘柄を株の返済のために契約した期限までには買い戻さなくてはならないため、株価が上昇していれば損失を被ることになる。ショート(売り)筋のポジションを損切らせる目的のため、「ショートスクイーズ」と呼ばれる。
個人による今回の仕掛けはSNSのレディット(reddit)と手数料なしで個人が簡単に株式取引できるアプリ「ロビンフッド」が大きな役割を果たした。また、コロナ禍による巣ごもりという特殊な状況もあった。野村証券の高田将成クロスアセット・ストラテジストは「2回の給付金が出た後にロビンフッドなどを通じた個人投資家の取引は増えている。多くの人がテレワークで在宅勤務をしており、個人が取引に参加しやすい状況にある」と話す。
ロビンフッドのビジネスモデルが問われる
個人投資家の攻撃は「空売りで儲けているヘッジファンドを懲らしめる」という発想で行われた。実際にゲームストップ株ではヘッジファンドのメルビン・キャピタルが巨額損失を余儀なくされるなど、影響が広がり、「個人投資家がヘッジファンドを打ち負かした」と話題になった。
ただ、空売りは現物に対するヘッジの場合もあり、必ずしもそれ自体で荒稼ぎを狙う場合ばかりでもない。また、空売りされている株式銘柄の多くは、そもそも財務や業績などのファンダメンタルズが悪いことを理由に売られており、ゲームストップ株も急騰後に急落した。個人投資家も結果的に損失を被っている。
「ロビンフッド」アプリを提供して証券民主化の旗手のようにもてはやされたロビンフッド・マーケッツは、個人の取引を一時停止して非難を浴びたうえに、決済機関からの証拠金引き上げ要求で何十億ドルもの資金調達に追われた。
野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は「ロビンフッドのビジネスは、個人の取引情報をHFT(High Frequency Trading、アルゴリズムに基づく高速高頻度取引)を駆使するヘッジファンドに回し、リベートを受け取ることで成り立っている。だから個人に対して手数料をゼロにできる。こうしたビジネスモデルを個人投資家の多くが理解していたかどうか疑問だ」と指摘する。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら