個人投資家のヘッジファンド攻撃が示すリスク 個人マネーが市場のボラティリティを高める

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野村総研の木内氏は「この間、ゲームストップ株の動きとNYダウの動きが逆になっていた。ゲームストップ株が買われると、ヘッジファンドがショートスクイーズによって被る損失をカバーするためにほかの株式も売るのではないか、という観測が働いて主要株も売られるという動きになっていた」と話す。個人投資家やヘッジファンドの動きが散発的な行動であってもシステミックな売りにつながっている。

リーマンショックでは投資銀行や証券会社が過度にレバレッジを高めてリスクを取っていた(過小資本で負債を膨らませて投資をしていた)ことが問題となり、銀行や証券会社には資本の充実やリスク量の制限などの規制が課せられた。そのことが、むしろマーケットメイクの担い手を不在にして、市場のボラティリティを高めたという指摘は従来からあった。

規制によってリスクを取る主体がヘッジファンドやETF、ミューチュアルファンドなどのノンバンクに移ったのであり、IMF(国際通貨基金)などもそうした指摘をしている。そして、ノンバンクの負っているリスクはかなりの部分が最終的に個人に転嫁されている。

レバレッジを高める個人がつくるバブル

さらに、懸念されるのは、個人投資家の中にレバレッジを高めるハイリスクの取引が広がっていることだ。

野村総研の木内氏は「金融機関が株価指数や商品指数に連動し裏付け資産を持たないETN(Exchange Traded Note)を活発に発行し、個人が投資している。昨年春のコロナショックでは、ハイリスクなレバレッジ型ETNで損失を被った個人投資家も多かった」と指摘。「個人投資家は、同じ方向に動きやすい。投資経験の浅い個人投資家が過度なリスクをとらされてしまうと、いったん市場が動揺するとパニック的に資金を引き揚げて、金融危機につながる懸念がある」と警鐘をならす。

マーケット・リスク・アドバイザリーの新村代表は「昨年4月に原油価格が一時的にマイナスになったときには、個人が原油ETFで損失を被った。個人は基本的にトレンドフォロワーなので、市場の動きを増幅するおそれがある。例えば、今後、グリーン化投資で電化進捗やバッテリー需要を期待して、銅やニッケル、アルミなどへの投機に個人が参加していくと、金属価格が高くなりすぎて実需の投資家が買えなくなるということも起こりうる。暴騰の後に暴落が起きるなどのリスクも予想される」と話す。

リーマンショックの前には投資銀行の買いで起きていたことが、今度は個人の買いで起きる構造になっている。

もともとFRB(連邦準備制度理事会)をはじめ、主要な中央銀行がコロナ禍で金融緩和をやめられない状況にあり、実質金利のマイナス状態が長期化している。投資家の間には楽観的なムードが広がり、ハイリスク投資に誘導されやすい環境にある。リーマンショックを教訓に金融機関のレバレッジを規制してきたが、現在は、運用商品を通じて最終投資家が過度なリスクを取らされていると考えられ、注意深く見ていく必要がある。

大崎 明子 東洋経済 編集委員

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おおさき あきこ / Akiko Osaki

早稲田大学政治経済学部卒。1985年東洋経済新報社入社。機械、精密機器業界などを担当後、関西支社でバブルのピークと崩壊に遇い不動産市場を取材。その後、『週刊東洋経済』編集部、『オール投資』編集部、証券・保険・銀行業界の担当を経て『金融ビジネス』編集長。一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務)修士。現在は、金融市場全般と地方銀行をウォッチする一方、マクロ経済を担当。

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