ミャンマー国軍による「クーデター」不吉な兆候 昨年11月の選挙結果に不満を募らせていた

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ミャンマーについての著書が複数ある同国の歴史家、タント・ミント・ユー氏は、「確実に、より暗い未来への扉が開かれたと言えるだろう。ミャンマーはすでに自らと戦争状態にあるような国だ。武器があふれ、何百万人もの人々が自給自足をするのがやっとの状態で、宗教的あるいは民族的に分断されている」と話す。

「この10年間で民主化に向けて少しでも前進できたことは奇跡に近い。誰も次に起こることをコントロールすることはできないだろう」

政治的変化はそれほどスムーズではなかった

権威主義が台頭しつつある世界において政治的な進化を始めたミャンマーは、民主主義の希望としてアメリカのオバマ政権を含む西洋諸国の政府の称賛を受けた。しかし、ミャンマーの政治的変化は語られたほどスムーズなものではなく、また重大なものでもなかった。

国軍は2011年、紛らわしくも「規律と繁栄に満ちた民主主義」と呼ばれる政治体制への移行を始めた。しかし、実際には軍の権力が維持されている。国会の4分の1は軍服を着た男性だ。主要省庁は軍の管理下にある。混沌とした民主化の始まりの数年の間、国家資産の投げ売りが行われたが、最も価値のあるものを手にしたのは軍の関連会社やその代理人であることが多かった。

2017年、国軍はロヒンギャに対する残忍なキャンペーンを強化し、75万人のイスラム少数民族を強制的に隣国バングラデシュに逃避させ、同時代で最大規模の世界的な難民の流出につながった。国連当局者によると、ロヒンギャの村落での大規模な焼き討ちは、組織的な処刑と強姦を伴い、大量虐殺的な意図を持って行われたという。

アメリカバイデン新政権は、アメリカがロヒンギャに対するミャンマー軍部による扱いを正式に大虐殺と呼ぶべきかどうかを検討している。アメリカを含む欧米諸国はすでに、ロヒンギャへの暴力に関与しているミン・アウン・フライン国軍司令官を含む軍高官に経済制裁を加えている。

今回の騒動は、表向きは昨年11月の選挙での不正行為への懸念から引き起こされたもので、NLDが5年前に勝利したときよりも、さらに大きな地滑り的勝利をもたらした。政権与党が476議席中396議席を確保する一方で、国軍系野党・連邦団結発展党はわずか33議席にとどまった。

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