「コタツ記事」を重宝するWebメディアの大迷走 「取材なき記事」や「ネタの盗用」が許される理由

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うまく風を読み時流に乗ることも、この仕事の醍醐味といえる。しかし、各社がとにかくスピード感を重視するあまり、十分な取材も考察もない記事も増え、結果的に「独自性のない似たような記事」が頻出する事態となっている。

最近では筆者のまわりでも「既視感を覚える記事を見ることが多くなった」という意見をよく聞くようになった。また、「独自色のあるメディア」や「このメディアだから読む!」といった習慣がなくなったのも、編集者やライターがネットの風におもねりすぎた弊害かもしれない。

あまりにも熾烈な競争社会

【問題その3:働き手の疲弊】
コタツ記事にしろ、記事の均質化にしろ、その背景にはあまりにも厳しい「PV争い」が原因としてある。そして、PV争いの一番の問題は、業界に従事する人々の疲弊につながるところではないかと危惧している。

私の年齢は47歳。もう20年近く働いてきたので特にやり残したことも悔いもないが、ネットニュース業界で働いている人やこれから働こうとしている人には、厳しい状況が待っていることを念押ししたい。

「2:6:2の法則」ではないが、おそらく今安全地帯にいるのは上位20%のメディアのみ。中位の60%のメディアは上位に登れる希望はある一方で、大きな炎上や不祥事を起こせば、たちまち撤退も危ぶまれる下位20%に沈没する危険もある。

編集者なら、常に自分の能力を高め、世間の風を読み、自分なりの成功法則を編み出し、10日に1本ペースで人気記事を発信できる人間であれば、ネットニュース業界のプレーヤーとして重宝されるだろう。

逆に、編集者として何も武器がないのであれば、さっさと別の職に鞍替えしたほうがいいかもしれない。いくら新聞や雑誌が部数を落とし、ネットがテレビの広告費を抜いたとしても、それが編集者にとっての働きやすさにつながるかというとそうでもない。

15年間働いて思ったことは1つ。この業界のゴールドラッシュはすでに終わってしまった。PVを追い求めた結果、メディアにしろ、編集者にしろ、強い者しか生き残れない状況になってしまったのだ。

中川 淳一郎 著述家、コメンテーター

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なかがわ じゅんいちろう / Junichiro Nakagawa

1973年東京都生まれ。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライターや『テレビブロス』編集者などを経て、出版社系ネットニュースサイトの先鞭となった『NEWSポストセブン』の立ち上げから編集者として関わり、並行してPRプランナーとしても活動。2020年8月31日に「セミリタイア」を宣言し、ネットニュース編集およびPRプランニングの第一線から退く。同年11月1日、佐賀県唐津市へ移住。ABEMAのニュースチャンネル『ABEMA Prime』にコメンテーターとして出演中。週刊新潮「この連載はミスリードです」他連載多数。

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