「職業」で人の明暗はなぜこんなに分かれるか 消える仕事・残る仕事を決定づける複合的要因

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たとえば、個人経営で1店舗しかない零細店の場合、元々の1カ月の売上高が186万円未満なら、かえって時短に応じたほうが収入は多い。時短で昼間に営業しても、材料費や光熱費はかかるため、さらに休業までしてしまうほうが割がいい。人件費も自分1人で済み、家賃も郊外なら安く、売上高がゼロでも協力金だけでやっていける。

悲鳴をあげているのが、時短の要請を受けていない、小売業やサービス業だ。中でも在宅勤務の浸透、外出自粛が直撃したアパレル店は厳しい。

紳士服専門店の青山商事は、40歳以上の社員に対し、希望退職400人を募集。役員報酬減額や通期無配も決めた。定款を一部変更し、クリーニング業を追加するなど、今後の事業展開を模索しているのがわかる。といっても、今日の事態はコロナだけが招いたとも言い切れない。スーツ離れが進んでいたのは以前からの傾向だったからだ。実際、政府がクールビズのキャンペーンを行ったのは2005年で、当時からオフィスでの服装のカジュアル化はじわじわと進んでいた。

三陽商会は「バーバリー」のライセンス契約終了後、柱となるブランドを育てられなかった(撮影:今井康一)

また百貨店向けに強いオンワードホールディングスは1400店、三陽商会は350店、ファッションビル向けに強いワールドも360店の閉店を発表。こちらもファストファッションの流行で時代遅れとなり、百貨店という高度経済成長時代のビジネスモデルとともに沈んでいる。三陽商会の場合、45年間続いた英「バーバリー」ブランドが15年に契約終了したのに、それに代わる後継ブランドを育てられなかった。

だが、アパレル店がみな壊滅しているわけではない。既存店売上高を見ると、ファーストリテイリングは国内ユニクロが2020年6月から7カ月連続プラス、しまむらは同年9月から4カ月連続プラス、ワークマンは何と2017年10月から39カ月連続プラスなのだ。ユニクロやしまむらは在宅で着る肌着など、日常着の需要拡大が追い風になった。ワークマンは従来の作業服の機能性におしゃれさが加わり、それまでガテン系など縁のなかった女性たちの支持を集めた。

アップルがEV開発、トヨタが下請けになる?

かように同じ業界でも、落差は考える以上に激しい。

これから「100年に一度の大変革時代」(豊田章男・トヨタ自動車社長)を迎えるのが自動車業界だ。

政府は2020年12月25日、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を発表。2050年までに二酸化炭素などの温暖化ガスの排出をゼロにすることを掲げた。中でも最大の注目が、排出量の19%を占める運輸部門。「2030年代半ばまでにガソリン車の新車販売ゼロにする」とうたわれ、1月18日の通常国会の施政方針演説では、菅義偉首相が「2035年までに」と明言してさらに踏み込んだ。

現状、ガソリン車でない電動車(ハイブリッド車=HV、電気自動車=EV、燃料電池車=FCV)は、まだ全体の4割弱にすぎない。特にEVでは部品の数が半減するとされ、基幹部品であるエンジンは、バッテリーとモーターに置き換えられる。完成車メーカーやサプライヤー(部品メーカー)だけでなく、販売店からガソリンスタンド、整備工場、自動車保険まで、500万人以上が自動車産業に関わっている。また普通車はともかく、軽自動車やトラックでは、ほとんどEV化が進んでいない。そのインパクトはとてつもなく大きい。

まだ正式には認めていないものの、アメリカのアップルもEVで自動車への参入を考えているとされる。中国でもネット検索最大手の百度(バイドゥ)が民営自動車最大手の浙江吉利から出資を受け、EVの生産販売に乗り出す。いずれも自動車とは縁のない業界からの進出で、そうした新興勢がPCやスマホと同様にプラットフォームを握ってしまえば、既存の自動車メーカーはただの下請け工場に成り下がるかもしれない。

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