元商社マンが挑む「宇宙ベンチャー」での逆転劇

嘲笑されても意に介さず「大義」で未来を拓く

名声も実績もないベンチャーが、なぜJAXAにとって初の民間開放だった「きぼう」の打ち上げ枠を勝ち取れたのか。そこには2つの「勝因」があったと永崎氏は想像している。

1つは「大義」を語ったこと。宇宙産業の発展が日本の成長にどれだけ不可欠なのかを、永崎氏は滔々と語った。この大義が、審査員の胸を打ったのではないか。もう1つは、スピーディーな意思決定だ。ナノラックス社のCEOジェフリー・マンバー氏は、宇宙関係者の間では「クセ者」として知られた人物。そのジェフリーが無名のベンチャーとMOUを結んだことをJAXAも評価したのではないか。

「会った当初から、ジェフ(ジェフリー・マンバー氏)は『日本人と仕事するのは本当に難しい』と言っていたんです。『何が本音なのか本当によくわからないんだ』と」

実はマンバー氏は以前より、高い技術力を誇る日本とのパートナーシップを望んでいた。しかし、日本組織の石橋を叩くような意思決定プロセスや結論がはっきりしない国民性に苛立ちを感じていたのだ。そこに日本の見知らぬ若者が現れ、その場で「やりましょう!」と言ってくれる。

これまで会った日本人とは異なる熱量とスピード感に、マンバー氏も「こいつならやってくれるかも」と可能性を感じたに違いない。結果、ナノラックス社と手を結んだことがJAXA採択の大きなアドバンテージとなった。

大義を掲げることと、スピーディーな意思決定が、日本の宇宙産業に風穴を開けたのだが、永崎氏は「昔の商社マンは皆そうだったのではないか」と語る。

「1970年代から80年代にかけて、鉄鉱石部門がすごく儲かっていた時代の取引をみると、『なんでこんな案件に投資できたんだ?』と首をかしげたくなる契約があるんですよ。商社が日本の高度成長を支えていた時代は、大義を持って個人でぶつかり、上司のハンコを待たずに握ってしまう、根性の座った商社マンがたくさんいたはずなんです」

「非合理な意思決定」が爆発的なパワーを生む

具体的な青写真がないまま三井物産を飛びだした背景には、そういう昔気質の商社マンが大切にしていた大義が失われつつあるのではないかという危機感を感じていたこともある。

「極力リスクを減らすことが必要なのはわかっています。ただ、稟議で6つも7つもハンコをもらううちに、企画の角が取れて丸くなってしまうと感じることがありました。そういったゼロリスク思考の意思決定に違和感を持つようになっていったんです」

心血注いで作ったA案で行こうと決めたはずなのに、上司が本部長室から戻ってきたら保険で入れておいたB案に覆っていた。そんな悔しさも味わってきたからこそ、三井物産を飛び出した以上は、自分の信念だけにしたがって生きていこうと決めた。どんな辛いことがあっても、屈辱にまみれても、「宇宙産業を日本の成長ドライバーにする」という大義の旗を降ろさなかった。

そんな自身の経験から、永崎氏は「結局、爆発的なパワーを生むのは『非合理な意思決定』なのではないか」と信じている。「宇宙をやろう」と決めたのも、マンバー氏をはじめとする世界の宇宙産業のキーマンとの出会いも、算段があったわけではない。いや、算段はないに等しかった。

「ボロボロだったエストニア出張で、唯一僕の話を聞いてくれたスペインの企業がいました。今、彼らが開発した衛星搭載用カメラが、僕たちの仲介で「きぼう」の中型曝露実験アダプター(i-SEEP)の中に搭載されているんです。こういう縁は、ロジックや確率論からはぜったい生まれないと思うんですよ」

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