元商社マンが挑む「宇宙ベンチャー」での逆転劇 嘲笑されても意に介さず「大義」で未来を拓く
スペースBDがこれまでJAXAとの“縁談”を取り持ち、受託した小型衛星やカメラの実績は、創業から3年間で30基近くに上る。顔ぶれは海外のトップ企業から日本の大学や社会人サークルまでさまざま。打ち上げサービスといっても、JAXAと民間事業者の間に入って打ち上げ枠を横流しするだけの単純なブローカー業ではない。重要なのが「技術サポート」だ。
地球から持ち込んだ小型衛星が、打ち上げの振動に耐えられず破砕して国際宇宙ステーションの宇宙飛行士に傷を負わせたり、バッテリーが引火したりといった事故が万が一にもあっては大惨事となる。それを避けるために、民間事業者には厳重な安全審査が課せられている。
「宇宙空間を模擬したいろんな試験を地上で行い、安全性を証明した英文のドキュメントを作成し、JAXAの審査にかけます。場合によってはNASAの審査も通さなければなりません」
この安全審査の煩雑なプロセスが、民間事業者にとっては参入の高いハードルになっていた。その一連の手続きをスペースBDが代行することで、ハードルはぐっと下がる。
屈辱のエストニア出張
2017年に創業したスペースBD。しかし、永崎氏はそれまで大学で宇宙工学を学んだわけでも、JAXAで研究に勤しんでいたわけでもない。もともとは三井物産の商社マン。「スターウォーズを観たことすらなくて」と笑う。
三井物産では人事部門や鉄鋼石部門を渡り歩いた。順風満帆なキャリアにみえたが、「思うところがあり」33歳で退職する。ところが、その時点では明確にやりたいことがあるわけではなかったという。
「三井物産という会社のことしか知らない人間が、会社の外でやることを構想するのは無理だと思ったんです。だからまず辞めるのが先だ、と」
1年間の充電期間を経てひとまず会社を立ち上げ、2年ほどで教育事業を軌道に乗せた。黒字を維持できるほどには安定していたが心のどこかに、「もっと突き抜けたい」という思いがくすぶっていたという。そこに、以前から永崎氏を目にかけていた投資家から、突然電話がくる。
「永崎さん。ロケットです。ロケットをやりましょう!」
予想だにしない打診。一瞬戸惑ったが、その場の勢いで二つ返事で応じてしまう。
「ロケットって何? という感じでしたが、思わず『やりましょう!』って。で、帰り道に『やるって言っちゃったなぁ……』みたいな(笑)」
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