「強いドル」と言わなかったイエレン新財務長官 公聴会発言から真意と通貨政策を展望する
アメリカの通貨政策を振り返れば、「強いドル」を唱えつつも、眼前で進むドル安は静観するという局面が繰り返されてきた。こうした「優雅なる無視」と呼ばれる通貨政策の姿勢は、直近では世界金融危機直後の混乱期(2009年1月~2013年1月)であるガイトナー財務長官の時代が思い返される。
就任直後から「強いドルを変わらず支持するのはアメリカの政策であり、今後もこの政策は継続する」(2009年9月、ブルームバーグ)と発言し、任期中盤にも「私がこの職務に就いている限り、強いドルがアメリカの利益である、ということがつねに政策だ。貿易相手国を犠牲にし、経済的な優位性を得るためにドルを下落させる戦略を決して支持しない」(2011年4月、ロイター)と念押ししていた。
しかし、ガイトナー財務長官の時代にドルの名目実効為替相場(NEER)は9.2%下落している。2011年はドル安の瞬間風速が最も大きくなり、就任から優に10%以上下落していた。発言と相場の現実は正反対だったといえる。
リーマン後もドル安を放置
当時のドル安に関しては「金融危機で傷ついた国内経済を支えるためにFRBが未曾有の金融緩和を継続・強化した結果としてドル安になっているのであって、それ自体が目的ではない」、だから通貨政策として「強いドル政策」を口にしていても矛盾しないというのがアメリカの言い分だった。そうして放置されたドル安の結果が1ドル=80円を割り込む超円高である。「世界最大の対外債権国」であり、当時はまだ大きな貿易黒字を柱とする経常黒字を抱えていた日本円がドル売りの受け皿となった。
リーマンショック以上の震度を誇るコロナショックの直後だけに、当時と同じロジックが繰り返される不安は残るが、既述のとおり、次に通貨高の按分を引き受けるのは政治的な対立相手でもあり、貿易黒字を抱える中国の人民元になる公算が大きいのではないか。
なお、第2次安倍政権発足直後となる2013年1月、アベノミクスの名の下で円安が大きく進み海外から批判の声が出た際、麻生財務相は「(リーマンショック後の円高相場に対し)ひとことも文句を言わなかった。それを円安方向に戻したからといって批判するのは筋としておかしい」旨の反論を展開して話題となった。これはアメリカの「優雅なる無視」の裏側で進んだ超円高を知る者として当然の発言だったといえる。
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