アメリカ分裂でバイデン政権の舵取りは困難に 当初から共和党と民主党左派の挟み撃ちに遭う

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1月5日、ジョージア州上院決選投票で民主党候補2人がともに勝利したことで大統領府、上下両院の3つすべてを握る「トライフェクタ(三冠)」を民主党は実現した。

上院で共和党が多数派を維持していたら、バイデン政権が成立を願う法案は共和党ミッチ・マコネル上院院内総務によって阻止される運命にあった。だが、上院奪還により民主党チャック・シューマー上院院内総務が議題を決定できることになる。またバイデン政権の閣僚など政府高官も上院で承認が容易になる。より大規模な対コロナ経済支援策、インフラ整備法案の可決なども可能性が高まる。バイデン政権にとっては公約実現のうえで、トライフェクタは朗報だ。

2022年に早くも下院過半数を失うおそれ

ところが、次回選挙を考慮すると必ずしもバイデン氏は喜べないかもしれない。共和党が上院多数派を維持していた場合、左派が望むグリーン・ニュー・ディール、オバマケアの大幅な改革をはじめ左寄りの政策に関わる法案を議会で可決できないことについて、バイデン氏は共和党に責任を転嫁できた。しかし、トライフェクタでは左寄りの政策の法案可決に期待が高まり、政権に対する左派からの圧力が強まる。

だが、上院では財政調整法を利用した一部の法案を除き、フィリバスター(議事妨害)を廃止しない限り、採決に入るためには60票の賛成票が必要だ。つまり、引き続き穏健派を含む民主党上院議員の50票すべてと共和党上院議員10票が必要となる。また、下院でも民主党の過半数確保はギリギリの状態(民主党222議席、共和党211議席、空席2議席)である。民主党提出の法案にすべての共和党議員が反対した場合、民主党6人が造反すれば可決できない。

そのため、バイデン政権は穏健派の動向に配慮し、左派が望む法案をすべて推進するわけにはいかない。バイデン氏は左派と穏健派の間で板挟みとなる。その結果、不満を抱く左派は2024年大統領選民主党予備選で独自の候補を擁立する可能性さえあろう。

一方、共和党は、民主党がトライフェクタを成立させたために、かえって、民主党の政策を過激なものだとして、反対運動を展開しやすくなる。2020年大統領選では、民主党に対して、社会主義、過激な左派、とのレッテルを貼ったが、2022年の中間選挙で同様のことを行えば、共和党は特に下院を奪還する可能性がある。2021年、共和党はバイデン政権に協力せず、妨害行為を拡大するかもしれない。

日々の大統領のツイッターなどで振り回された4年間のトランプ政権の混乱後、バイデン政権は政策に一貫性を取り戻し、表面上はアメリカ政治が落ち着きを取り戻したように見えるかもしれない。しかし、バイデン氏は、同氏が不正選挙で選ばれたと考える多くのトランプ支持者、さらには民主党左派といったさまざまな抵抗勢力に対応せねばならない。危機対応においては幅広い国民からの支持が欠かせない。バイデン氏の政権発足後のハネムーン期間は短いものとなりそうだ。

渡辺 亮司 米州住友商事会社ワシントン事務所 調査部長

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わたなべ りょうじ / Ryoji Watanabe

慶応義塾大学(総合政策学部)卒業。ハーバード大学ケネディ行政大学院(行政学修士)修了。同大学院卒業時にLucius N. Littauerフェロー賞受賞。松下電器産業(現パナソニック)CIS中近東アフリカ本部、日本貿易振興機構(JETRO)海外調査部、政治リスク調査会社ユーラシア・グループを経て、2013年より米州住友商事会社。2020年より同社ワシントン事務所調査部長。研究・専門分野はアメリカおよび中南米諸国の政治経済情勢、通商政策など。産業動向も調査。著書に『米国通商政策リスクと対米投資・貿易』(共著、文眞堂)。

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