ヤマハ「ウインナホルン」工場に行ってみた 世界最高峰ウィーン・フィルに欠かせない楽器

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現在はオーボエ、ファゴットなど、ほかのウィーン式楽器も手掛けるようになった。2012年には、ウィーンの音楽文化の発展に寄与したとして、長年開発に携わった岡部比呂男常務が「ウィーン州功労者賞」を受勲した。

市販のホルンは豊岡工場で年間約5000本(1日あたり約25本)作られているのに対し、ウインナホルンは年間10~15本。1本作るのに約1カ月かかる。

約700人の管楽器製作担当者を抱えるヤマハにあっても、ホルンの全工程を一人で仕上げられる技術者はたったの2人しかいない。ウインナホルン製作に限れば、管楽器製作36年の斉藤重登上級特技員の1人だけだ。そんな斉藤さんも「同じ力でプレスをかけ続けるなど、今でも難しいと感じる点がある」と語る。

今後は若手の技術者を育成していくことが課題だ。

人の手で厳しくチェック

豊岡工場では大量の楽器を効率よく生産するため、塗装や洗浄などの一部を自動化するなど機械化を進めている。が、やはり人の手に頼る作業は多い。

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溶接も手作業

溶接一つとってみても、楽器の場合、微妙なズレで音質が変わってしまうため、ロボットの利用は困難だ。熱が加わった際に金属がどう伸び縮みするかを心得た作業者が、はんだ付け方式で行っている。

最終工程である組み立てもすべて手作業。何十人もの作業者がずらりと並び、一人が一つの楽器を担当し黙々と手で組み立てていく。小さな傷も見逃さぬよう、組み立てフロアには、ほかのフロアの倍以上の数の電灯がともっている。

さらに組み立て後は、実際に音を鳴らして不具合がないか、全製品を検査する。そのため、フロアの片隅からは高い音から低い音まで、つねに楽器を吹いている音が聞こえてくる。この人の手による最終検査を経なければ、ここで作られる楽器は出荷されない。

世界屈指のオーケストラの楽器から小学校の鼓笛隊で使われるものまで、幅広いグレードの楽器が豊岡工場で作られている。その体制を支えているのは、職人の熟練の技だった。

(撮影:大澤 誠)

長瀧 菜摘 東洋経済 記者

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ながたき なつみ / Natsumi Nagataki

​1989年生まれ。兵庫県神戸市出身。中央大学総合政策学部卒。2011年の入社以来、記者として化粧品・トイレタリー、自動車・建設機械などの業界を担当。2014年から東洋経済オンライン編集部、2016年に記者部門に戻り、以降IT・ネット業界を4年半担当。アマゾン、楽天、LINE、メルカリなど国内外大手のほか、スタートアップを幅広く取材。2021年から編集部門にて週刊東洋経済の特集企画などを担当。「すごいベンチャー100」の特集には記者・編集者として6年ほど参画。2023年10月から再び東洋経済オンライン編集部。

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