変異種出現で変わった「コロナ収束のシナリオ」 今のワクチン接種ペースでは対抗できない
「全体の論旨は説得力があり、私たちがこれまでに他のルートで得ている情報とも整合性がとれている」とハナージ氏。「これは実際に大きな問題だ。感染力が高まったことを示す証拠もある。今後数カ月で大きな影響が出てくるのも間違いない。いずれの点においても、かなり説得力のある分析が行われていると思う」。
この変異種は12月上旬にイギリスの研究者が注視するようになったもので、ロンドンとイングランド東部で急速に感染を広げている。従来種に対し23カ所に変異が見られ、うちいくつかの変異によって感染力が高まった可能性がある。
この変異種が実際に速いペースで感染を広げていることを示すさらなる証拠が、デービス氏の研究チームによって発見された形となる。
現状の対策なら状況はより深刻化
研究チームは変異種の拡散を説明するために複数の数理モデルを構築し、それぞれの精度を検証した。実際に確認された新規感染者数、入院患者数、死者数に対し、どのモデルが最も正確な予測をはじき出していたかを分析したのである。
研究チームの結論はこうだ。この変異種は平均的にいって他の変異種よりも感染力が高い――。デービス氏は、直近の感染拡大についてはデータ収集が完了していないため、感染力が56%高くなったというのは粗い推計である点に留意が必要だとしている。
しかし、それでも、この新たな変異種を深刻に受け止めなければならないという結論は変わらないという。「全体的なエビデンス(科学的証拠)からして、この点は確かだ」(デービス氏)。
デービス氏の研究チームはさらに、同変異種が今後の6カ月間に及ぼす影響を予測するために、さまざまな規制措置を反映させた数理モデルも構築した。研究チームは、ワクチン接種を大幅に加速しない限り「2021年の新規感染者数、入院患者数、集中治療室の入院患者数、死者数は2020年を上回る可能性がある」と警告している。
研究によると、2月まで学校を休校にすればイギリスは多少時間を稼ぐことができるかもしれない。が、こうした追加規制を緩めるやいなや、感染者数は再び急増に転じるという。
デービス氏らのモデルは、ワクチンの効果も考慮に入れている。ワクチンの専門家は、現在のコロナワクチンは変異種にも有効との見方に自信を示している。それを確認するための実験が現在行われているところだ。
研究チームは、現在のペースでワクチン接種が進んだ場合の効果を予測するために、毎週20万人がワクチン接種を受けた場合の数理モデルも作成した。すると、これでは遅すぎて、感染の拡大をほとんど食い止められないことがわかった。「この程度の接種スピードでは、行動規制を緩和できるほどの効果は得られない」とデービス氏。