三菱自動車の中期計画は”ロシア頼み” 資本政策先送り
「具体策に欠け、不十分な計画だ」--。三菱自動車が2月29日に発表した2008年から3年間の中期経営計画を、自動車アナリストたちが酷評している。最大の焦点だった資本政策に何も触れられなかったからだ。
同社は三菱グループ各社に約4400億円もの優先株を発行、09年度からは毎年221億円の配当圧力が新たに生じる。これは08年3月期の純利益とほぼ同じ額。利益がすべて優先株配当で吹き飛ぶ水準だけに、この処理なしでは同社の復活はありえない。だが、今回の中計では、優先株の買い入れ消却や普通株転換策など、具体的な方針はいっさい示されなかった。
資本政策がまとまらなかったばかりか、肝心の業績回復シナリオも精彩を欠く。最終年度である2011年3月期の営業利益目標は900億円。今期見通しの800億円にわずか100億円を上乗せしただけの数字である。
頼みはロシアだけ
急激に進んだ円高に加え、米国、国内での自動車市場低迷が、攻めへと転じたい同社に逆風となって襲いかかっている。200億円(08年3月期見込み)の赤字を垂れ流す国内は、これ以上の発展はないと見切った。販売店を1割減らして間接人件費などを削減、縮小均衡策によって10年度に利益均衡に持っていくのがやっと。北米では、三菱車の販売は昨年12月に前年同月比で4割減少するなど急失速しており、今後、何らかの販売テコ入れ策の提示が急務となっている。
国内・北米の2大市場に期待できない同社が、新中期経営計画で頼みの綱とするのは、東欧や中近東、中南米などの新興市場だ。
中でもロシアについては、「今後は全世界でつねにいちばん早く新車を入れる国にしたい」(三菱自動車)と言うほどの力の入れようだ。
資源高騰で右肩上がりの経済成長を続けるロシアは、現在モータリゼーションの勃興期にある。昨年の自動車販売台数は5年前の約2倍の水準となる246万台を記録した。民間調査会社によれば、16年には388万台に達し、ドイツを抜いて欧州最大の市場になる可能性が高い。
三菱自動車は、主力セダン「ランサー」で現地のカー・オブ・ザ・イヤーを05年、06年と2年連続受賞。07年度は前期比51%増となる10万5000台の販売を見込む。また、生産工場建設の計画も着々と進んでいる。合弁相手とうわさされる仏PSAも、10年ごろをメドにロシアでの車両生産を予定しており、すでにモスクワから180キロメートル南西のカルーガ州に200ヘクタールもの広大な敷地を購入している。仮に合弁が現実となれば、三菱自動車はこの敷地を借りる形で生産工場を建設することになるものと思われる。
同社は新中計最終年の11年3月期にロシアだけで17万台という目標を掲げる。同時期の世界販売台数目標は07年度(見込み)対比6%増の142万台。つまり、成長のほとんどをロシア市場で牽引する計算だ。「われわれとしては、当然もっと上を目指せると思っている」と三菱自動車はあくまで強気である。
が、今後もパイの拡大にあずかれるか、その保証はない。現在、ロシアには世界各地から自動車メーカーが攻め込んでいる。最近ではトヨタ自動車と日産自動車、中国・奇瑞汽車が販売を急拡大。加えて新工場建設までは、生産面のボトルネックが三菱自動車にとって課題となる。特にロシア向け車種の大半を製造する水島工場は、定時生産能力を大きく上回るフル稼働が続き、増産余力がない。
また、優先株処理の遅れは、投資資金の調達などの面からも、ロシア展開の足を引っ張りかねない。課題の優先順位は明らかなのだが……。
(撮影:谷川真紀子 =週刊東洋経済2008年3月15日号)
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