JAL、ANAが迎える航空業界のかつてない正念場 桜美林大・橋本客員教授「大手2社残すべき」
[東京 1日 ロイター] - 新型コロナウイルスの感染拡大で旅客需要が「蒸発」した航空業界は、2021年が生き残りをかけた正念場になると、桜美林大学客員教授(航空・マネジメント学群)で、航空経営研究所の主席研究員も務める橋本安男氏はみる。移動を伴わない生活様式やビジネス慣行が広まり、たとえ経済が回復してもコロナ前の状態には戻りにくいと指摘する。日本では大手2社の統合論が一部で再燃しているが、競争原理は残すべきと話す。
同氏の見解は以下の通り。
<続くコロナ禍、需要構造が変化>
経済協力開発機構(OECD)によると、世界経済は21年末までにコロナ前の水準に回復する見通しだが、航空旅客需要、特に国際線の状況は改善の兆しがなく、経済回復にまったく追従できていない。各国の出入国規制で依然、国際的な移動が制限されているし、特にビジネスでは現地に出向かずオンライン会議で代替することも一般化しつつあるからだ。 当然ながら各社は手元資金を厚くしている。しかし、21年が生き残りの正念場であることは間違いない。
国際航空運送協会(IATA)の最新見通しでは、20年の航空旅客数はコロナ前の19年比で約6割減の18億人、21年は28億人に回復するが19年比で約4割減を見込む。今上期末の各社の手元資金は平均8.5カ月で尽き、21年第1・四半期に破綻する会社も出てくると予測している。
24年までには19年の水準に戻るとみるものの、不確定要素も多く、大きく下振れる可能性も示している。
感染の再拡大が世界的に続く中、日本では観光需要喚起策「GoToトラベル」の一時停止が決まった。JALは今期末に国際線の旅客需要がコロナ前の25─45%、国内線では72─87%まで戻ると想定。ANAは国際線5割、国内線7割の回復を見込んでいるが、不透明感は一段と強まっている。
旅客需要構造の質的変化も避けられない。コロナ禍で教訓を得た企業は、危機管理の点から感染症のパンデミック(世界的大流行)再来を想定し、今後もオンライン会議やテレワーク、サプライチェーンの一部国内化を推進し、できるだけ人の移動に依存しないビジネスモデルを追求するだろう。
<コロナ禍でのLCC活用>
需要構造の変化を見据え、ANAホールディングスと日本航空(JAL)は格安航空会社(LCC)の活用に動き出している。LCCのビジネスモデルはイベントリスクに強く、コロナ禍の正しい戦略として評価できる。
第1の狙いは先に回復するレジャー・個人需要を的確に捉えることだ。また、景気悪化で顧客は安い航空券を選ぶだろう。
固定費による資金流出はLCCのほうが大手航空より小さく、より長く苦境に耐え得る。感染を防ぐ衛生管理の徹底により、運航コストがかさみ、(LCCの収益モデルである)短時間での折り返し運航が減る可能性もあるが、少ない人員で多くの旅客を効率よく運べるLCCの強みが発揮できそうだ。
いずれ旅客需要が19年の水準に戻っても、企業の出張抑制で特に国際線のビジネス需要は減る傾向だろう。その場合イールド(旅客1人に対する1キロメートルあたり収入単価)が下がり、事業収入は落ちる。イールド低下は大手には痛いが、低コストで運営できるLCCには有利に働く。
<環境意識の高まりで鉄道と競争>
航空業界には、環境問題への対応という課題もある。飛行機はもともと二酸化炭素(CO2)排出量が多く、環境団体から批判が高まっている。欧州では「飛び恥」と呼ばれることもある。米国では環境政策に注力するバイデン次期大統領が鉄道の拡張を支持しており、世界的に「飛行機ではなく、高速鉄道で」という動きが強まりかねない。
機関投資家や消費者からの環境対応イメージに配慮し、一般企業が飛行機の利用を抑えることも考えられる。フランス政府はエールフランスへの公的資金投入の条件にグリーンポリシーを付加しており、鉄道と競合する国内の短距離路線を廃止する方針も示している。
<ANA・JAL統合論>
コロナを機に、ANAとJALの統合論も再燃している。特に国際線は統合して1社化すべきなどの意見も聞かれるが、航空大手は国内線と国際線を併せ持ち、両者を結び付けるネットワークを持つことで成立している。何より国際線専従はイベントリスクに対して脆弱(ぜいじゃく)すぎる。ANAやJALが国際線専従だったなら、コロナ禍でとっくに破綻していただろう。
事実、国際線専従のシンガポール航空は危機にひんし、シンガポール政府が政府系ファンドを通じて1.2兆円を超える巨額支援を行っている。香港のキャセイ・パシフィック航空も同様だ。
両社のライバル関係により、価格だけでなく、サービスにも磨きがかかっている。競争原理は残したほうがいい。
*小見出しの余分な文言を削除し再送します。
(聞き手:白木真紀 )
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