ANAとJAL「巨額増資」で手にしたカネの使いみち 経営環境が悪化する中で競うように資金調達

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市場を驚かせたJALの公募増資発表から約20日後、ANAも巨額の増資を発表した(撮影:尾形文繁)

この1カ月、新型コロナの影響で苦境にあえぐ航空大手2社が、競うように公募増資に乗り出した。

先手を打ったのは日本航空(JAL)だ。JALは11月6日、公募増資などにより最大で1679億円を調達すると発表。同社の公募増資は、アメリカ同時多発テロやイラク戦争、SARS(重症急性呼吸器症候群)後の2006年に実施して以来のことだ。そしてANAホールディングスも11月27日、JALに3週間の遅れを取って、公募増資などによる最大3321億円の調達を打ち出した。

2社の2021年3月期は航空需要の低迷から、JALが最大で2700億円、ANAが5100億円に上る最終赤字を計上する見込みだ。赤字と借り入れを増やしたことで、2020年3月末から9月末にかけて自己資本比率が、JAL、ANAともに10%近く低下している。そこでJALは22.8%、ANAは29.5%の希薄化を伴う形で、株式市場からの資金調達に乗り出した。

JALの増資発表後に“神風”

JALの増資発表直後、アメリカの製薬大手・ファイザーの臨床試験で新型コロナ向けワクチンの有効率が90%を超えたという発表があった。これが航空需要の回復につながるとの連想を生み、航空株が値を戻した。公募増資を発表した11月6日から条件決定を迎えた11月18日までに、JALの株価は7%上昇。「神風」が吹いたことで、調達額は当初見込みから147億円上振れ最大1826億円となった。逆にANA株は発表日から条件決定日まで7%下落。調達額は当初見込みを269億円下回り、最大3052億円となった。

ただ、ANAは10月に調達した劣後ローン4000億円のうち、資本性を認定される2000億円と合算することで、5100億円の最終赤字による資本の減少を補うことを重視している。この観点からすると、公募増資などによる調達額は3000億円台で及第点と言えるかもしれない。

2社は公募増資などで調達した資金を主に債務の返済と、既に契約済みの航空機代の支払いに充当する。前向きな成長投資とはいい難いが、ANAの中堀公博グループ経理・財務室長は「当社の持つ約3割の羽田国際線の発着枠は、やはり強みになる。こちらはもちろんJALさんよりも多く、(投資家から)ご評価いただいている」と語る。「ドル箱」とされる羽田空港の発着枠など、市場が資金使途以外に成長性の部分も一定程度折り込んでいることを示唆した。

当然ながら、発着枠を持っているだけでは売り上げを生まない。公募増資を終えた2社は需要が先行して回復する地域や都市を迅速に見つけ出せるのか。逆風が吹きつける中でエアラインとしての目利きや実力を改めて問われることになる。

『東洋経済プラス』では、短期連載「航空異変」で以下の記事を配信しています。
財務データでわかる「大赤字」 ANAとJALの格差
「破綻」は避けられるのか ANAが迎える正念場
JALが先手「増資」1680億円の胸算用
エアアジア撤退、消える「第3のエアライン」
森田 宗一郎 東洋経済 記者

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もりた そういちろう / Soichiro Morita

2018年4月、東洋経済新報社入社。ITや広告・マーケ、コンサル、エンタメ産業などを担当。過去の担当特集は「アニメ 熱狂のカラクリ」「氾濫するPR」「激動の出版」「パチンコ下克上」など。

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