一歩前進「富士登山鉄道」、今年は正夢になるか 既存の道路を活用してLRT敷設、ハードルは高い

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素案は事業費や収支シミュレーションのほか、線路の幅は新幹線や箱根登山鉄道などと同じ1435mm(標準軌)、山麓から5合目までの所要時間は約52分――といった細かな部分にも触れており、ある程度構想が具体化している印象を受ける。

だが、「素案はあくまで『イメージ図』というか『たたき台のたたき台』といったところ。どこも決め打ちした部分はない」と藤巻氏はいう。

例えば、収支予測は民間による建設・運営をベースとしているが、「一般的に言って最も資金事情が厳しいのは民設民営ではないかということで、一番ハードルが高いところで考えた」(藤巻氏)結果で、運営方式については今後の課題だ。事業費の試算も、「一般的なLRTの建設単価を基に、富士山の路線延長だとざっくりこのくらいという内容。富士山だと考えなくてはならない要素がたくさんあるので、まだまだ精査が必要」(柏木氏)という。

技術面でも課題を抱える。登山鉄道は景観に配慮して、架線のない非接触給電方式やバッテリー式などを検討している。「高性能電池を開発したという話もいくつか持ち込まれている」(藤巻氏)というものの、山岳路線での「架線レス」システムは開発途上の分野で、検証が必要だ。線路の幅は、箱根登山鉄道などにヒアリングする中で「無理なく登坂できる性能を考えると標準軌にしておいたほうがいいのではないか」(柏木氏)といった仮定の段階だ。

「まだ1合目に行っていない状態」。柏木氏は現状を富士登山に例えてそう表現する。

乗り越えるべき「山」は高い

事業としての実現可能性だけでなく、富士山に軌道を敷設すること自体にも課題は多い。富士山は国立公園内であるとともに「特別名勝」でもあり、工事は自然公園法や文化財保護法に基づく現状変更などの許認可が必要となる。

また、世界遺産条約の作業指針は、その価値に影響する可能性のある新規工事や復元を行う場合、ユネスコの世界遺産委員会に通知することを求めている。学識経験者でつくる富士山世界文化遺産学術委員会(委員長・遠山敦子元文部科学相)は2020年10月、富士山で大規模工事の可能性があるプロジェクトの検討が始まっていることを速やかに報告するとともに、「遺産影響評価」の実施を前提に計画を検討すべきと提言した。文化庁は12月下旬、ユネスコ世界遺産センターに対し、登山鉄道構想に関する「情報提供レポート」を提出した。

さらに、地域の理解が得られるかどうかも大きなポイントだ。富士山周辺自治体の関係者からは、地元の意見を聞いていないとの不満や、構想そのものに懸念を示す声もある。収束の兆しが見えないコロナ禍も大規模プロジェクトには逆風だ。

乗り越えるべき山はまさに富士山のごとくそびえ立つが、注目度も高まる富士山登山鉄道。県は2月の総会で構想を取りまとめる予定だが、はたして「日本一の山」に電車が走る日は来るのだろうか。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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