一歩前進「富士登山鉄道」、今年は正夢になるか 既存の道路を活用してLRT敷設、ハードルは高い
導入するシステムは、LRTのほかに一般の鉄道やラックレール式(歯車と歯型のレールをかみ合わせて急勾配を登る)鉄道、ケーブルカー、ロープウェイを対象として検討。既存の道路上に軌道を敷設することで、現状変更を最小限に抑えられるLRTが、環境面や技術面で最も優位性が高いとされた。
富士スバルラインの勾配は最大8%(100m進んで8m上る)で、これは一般の鉄道として国内でもっとも勾配が急な箱根登山鉄道(80‰)と同じ。曲線半径は最小約30mで、複線の軌道を敷設する場合でも道路の拡幅は必要ないという。
一般の鉄道ではなく路面を走るLRTとしたのは、緊急時の道路利用を考慮しているためだ。登山鉄道が開通すれば富士スバルラインはバスを含め自動車の通行をすべて規制する想定だが、「富士山は環境が厳しく災害の可能性もある。緊急自動車などが通れるよう道路も活用できるシステムとして、路上に線路を敷設するLRTが優位になった」と藤巻氏はいう。
バスではなく「軌道」の理由
一方、県による過去の検討で有力とされたこともある電動バスなどの自動車系交通は検討対象にならなかった。
理由としては、「現状の性能を考えると、電動バスは相当な量の電池を載せる必要がある」(藤巻氏)といった技術面の問題や、冬季も含めた通年の富士山観光を考慮し、「ゴムタイヤより鉄軌道のほうが雪や氷に対応できる期間が長くなるのではないか」(柏木氏)といった点があるというが、軌道系交通を推進する1つの要素はライフラインを同時に整備しやすいことだ。
山梨県側の5合目は電気や上下水道が通じておらず、現状では発電用の燃料や水、そして下水の運搬は自動車による輸送に頼っているという。電力を通す検討もされたものの、「それだけでも数十億円かかる」(柏木氏)。そこで考えられているのが、軌道整備に合わせて電力ケーブルや上下水道を埋設する案だ。全体で1200億~1400億円と試算される概算事業費には、ライフラインの整備費約100億円も含まれる。
藤巻氏は「登山鉄道が富士山で問題とされていることを多方面から解決しうる手法になるのではないか。知事も、旅の満足感やぜいたくさを感じられる登山鉄道を契機に、富士山や地域の『高品質化』を進めたいと述べている。バスではそうはなりにくい」と、鉄道である意義を説明する。
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