メディアが成長率の計算間違いを訂正しない訳 足して割るだけが「平均」の計算ではない
私は2006年11月当時、年平均成長率について誤った報道をしたマスコミ数社に上記の説明を丁寧に伝えた。
しかしその後、「いざなぎ景気の年平均成長率14.3%は誤りで、正しくは11.5%」という訂正の記事やコメントを見聞きすることはなかった。
知っていると便利な「相乗平均」
上の例で誤答となったほうの考え方は、数学の世界では相加平均と呼ばれると述べたが、正答となったほうは相乗平均という考え方である。簡単な例を挙げるので、読者の皆さんにも相乗平均をぜひ理解していただきたい。
ある鳥の生息数を調査したところ、最初の1年間で3/2倍になり、次の1年間では8/3倍になった。それに関して、「3/2と8/3を足して2で割って、2年間を平均すると1年間で25/12倍になっている」と考えてよいだろうか。
実は、「2年間を平均してみると、1年間で〇倍になっている」という表現は、「2年目の結果を最初と比べてみると、毎年〇倍になっていく状態が2年間続いた結果と同じ」という意味である。
言い換えれば、期間全体の増え方を、毎年〇倍になっていく状態にならしているのである。
いまの鳥の例では、
であり、4=2×2なので、「2年間を平均してみると、1年間に2倍になっている」と考えるべきなのである。
なお、4=2×2というのは、「鳥の数が年平均で〇倍のペースで増えれば、2年間で(1から)4になる」という考え方を表したもので、「〇倍」の答えが「2」になるということである。4÷2=2と計算しているわけではない。
このような考え方が相乗平均である。上記の計算で気づいた読者もいるかもしれないが、この例では2個のデータ(3/2と8/3)を掛け合わせて2乗根(ルート2)を取ることで「2倍」という答えを算出している。
相乗平均はn個のデータを掛け合わせて、そのn乗根を取った数値なのである。
データが3個の例を挙げよう。5/4と6/5と9/4の相乗平均はいくつになるだろうか。
まずデータを掛け合わせる。
27/8の3乗根を求めるわけだから、
答えは3/2となる。
数学的な考え方を使える人とは
読者の皆さんは「こんなこと知って何になる?」と感じただろうか。そんなことはない、ビジネスパーソンはプロジェクトの売り上げやイベントの集客など、いろいろな項目で期間平均伸び率を計算する機会があるのではないかと思う。
数学嫌いの人は「数学は役に立たない」とよく言う。しかし、こんなふうにビジネスや生活ですぐ使えるケースも少なくない。
さらに、例えばここで挙げた例でも「相加平均と相乗平均のどちらを使うのが適切か」と考えること自体が、思考力を高めるレッスンになるのである。
筆者は東洋経済オンラインの記事で「定理や解答を導く論理を飛ばして、試験対策としてやり方の暗記だけをさせる『暗記数学』はダメだ」とたびたび批判してきた。
中学・高校生はもちろん、社会人で学び直す人も「暗記数学」ではなく、たとえ時間がかかっても数学の論理的な考え方を学んでほしい。そのようにしてこそ、社会に出てからも数学的な考え方を適切に使えるようになるのである。
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