スマホ断ちできない人はその危うさを知らない 依存症が重症化すると回復できても困難になる

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アルコールの場合は大量の連続飲酒を続けると、特に高齢者の場合はすぐ体がもたなくなりますし、若者でもそう長期間大量飲酒はできません。多くの違法薬物でも同様です。ギャンブルや違法薬物の場合では、まず初めにお金が底をつきます。借金でいう「返済困難」の状態です。体やお金がもたなくなると、いずれ何らかの手当てが必要になります。

ところが、タバコやスマホ、オンラインゲームの場合では少し状況が異なります。チェーンスモークで1日に100本タバコを吸い続けても、すぐに肺がんや肺気腫(肺の組織が壊れて穴だらけになる病気)、心筋梗塞にはなりません。参考までにですが、肺がんの罹患者数が多くなるのは、50代以降です。タバコを吸いながらでも仕事はできます。最近タバコは税率が非常に高いのでぜいたく品ですが、経済的に破綻するほどの値段でもありません。「自転車操業」の状態を、ある程度長く続けることは可能です。ここが怖いところなのです。

依存症の世界は生きている限り回復は可能

スマホやオンラインゲームの場合も同様です。1日のほとんどをスマホのSNSやオンラインゲームに費やしても、(運動不足になったり、食事や睡眠時間が乱れたりすることはあるかもしれませんが)短期間で体を壊すようなことにはなりません。

青少年の場合は、特に体がもちます。親がWi-Fiや電気、食事などを含めた最低限のライフラインを維持すれば、経済的にもそう簡単には破綻しません。親が最低限のライフラインを維持しない、もしくはできなくなると(借金でいう「返済困難」の状態)破綻に陥ることになりますが、一般的にかなりの長期間にわたって「自転車操業」の状態を続けられます。当然、「借金状態」や「自転車操業」状態が続くと、依存症は重症化していきます。

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「自転車操業」状態になると、何となくまずいと感じて、依存症から自ら抜け出そうとするのではないか? と考える方もいるかもしれません。もちろん一部の人は、依存症の「自転車操業」状態になる前、もしくはなってからでも自ら(もしくは周囲の勧めから)決意して、回復に向かいます。しかし「自転車操業」状態になっても、当面の生活に強く困窮しなければ、依存症からの回復を先送りにしてしまう人も多くいます。その理由は、依存症からの回復の道がとても困難だからです。

さて、借金の世界では、返済困難の次は返済不能です。そして「破産」になります。または夜逃げや海外逃亡によって無理やり借金から逃れられるかもしれません。が、依存症とはいわば、「自己の脳内借金」なので、これを支払わずに逃れることはできません。夜逃げも海外逃亡も効かず、清算するしかない――。

でも、安心してください。依存症の世界は現実の借金の場合と異なり、生きている限り返済不能に陥ることはなく、破産という事態はありえません。そしてこの「脳内借金」を返済して、必ず回復することは可能なのです。

中山 秀紀 医学博士、医療法人北仁会旭山病院精神科医長

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なかやま ひでき / Hideki Nakayama

1973年、北海道生まれ。専門領域は、臨床精神医学、アルコール依存症。2000年、岩手医科大学医学部卒業。04年、同大学院卒業。岩手医科大学神経精神科助教、盛岡市立病院精神科医長を経て、10年より独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター勤務。同年、「第45回日本アルコール・アディクション医学会優秀演題賞」受賞。19年、「第115回日本精神神経学会学術総会優秀発表賞」受賞。11年よりネット依存治療研究部門に携わる。同センター精神科医長を経て、20年4月より現職。

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