終電繰り上げ「10分でも助かる」鉄道現場の叫び 十数分でも時間が増えれば「週休2日」可能に?

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東京メトロの終電繰り上げは、各線ともおおむね10分だ。「率直に言って10分はかなり大きい」と、東銀座駅の工事の際に取材に応じた同社工務部の星野雅彦軌道課長は語る。

「10分あれば現場の安全確認やボルトを緩めるなどの作業ができ、効率は必ず上がる。終電の遅れなどで作業開始が10分ずれると工事が中止になることもあるので、そういったリスクの回避にもつながる」(星野課長)。別の工事関係者も「10分は5日で50分」と、積み重ねによる効果の大きさを強調する。

コロナ禍による深夜利用の激減で一気に進んだ、鉄道各社の終電繰り上げ計画。ただ、以前から夜間作業の要員確保や「働き方改革」の観点で、終電時刻の見直しは鉄道業界の検討課題だった。口火を切ったのはJR西日本だ。同社は2019年10月、作業員確保に向けた労働環境改善の必要性と深夜利用者の減少を受け、終電の繰り上げを検討すると発表し注目を集めた。

東京メトロが終電繰り上げを発表したのは今年11月末。だが、「何分繰り上げたら夜間作業がどう変わるかというシミュレーションはしていた。検討課題としては以前からあった」(同社運転部の米元和重輸送課長)といい、コロナ禍による利用者減少で実現に向けた動きが本格化した形だ。同月上旬に終電繰り上げを発表した小田急電鉄も「JR西日本が昨年発表したが、課題としてはそれ以前から認識していた」という。

「週休2日」導入できるか

一方、少なくとも大手鉄道会社は、終電繰り上げによるコスト削減への期待は薄いようだ。東京メトロは「(工事関連で)1%程度ではと感じている」(工務部星野課長)、「労務費や電気料金などに削減の余地があるとは考えているが、どの程度かは精査中」(同社広報)といい、コスト面は重視していない様子がうかがえる。小田急も、「赤字補填ができるようなレベル感ではない。費用の圧縮云々というよりは、将来に向けた体制強化」と説明する。

終電繰り上げ後を見据えた労働環境改善の動きはすでに始まっている。東京メトロは、10分程度作業時間が延びることで工期短縮が見込めるため、先行事例として週休2日制を導入した工事を数件実施中という。星野課長によると、作業員の休日は工事会社によっても異なるものの、おおむね隔週2日(4週6休)。先行事例で、休日を増やした場合にどのような工程管理が必要かなどの課題を洗い出す予定だ。

コロナ禍によるテレワークの普及などで鉄道の利用者数は減少し、今後も従来の姿に戻ることはないと見る関係者も多い。鉄道会社にとっては苦しい状況だが、「終電繰り上げが認められる世の中になったのはありがたい」(ある私鉄関係者)との声も聞かれる。

ホームドアなど新たな設備の導入や、開業から年月が経過した線路の補修など、鉄道施設のメンテナンス件数は増加が続いている。終電繰り上げを単なるサービスダウンに終わらせず、現場関係者の労働環境改善にいかに結び付けられるかが重要だ。

小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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