西岡:僕が「この人の思考は面白いな」と感じるのは、自分がまったく持っていない軸を持っていることに気づいたときなんです。ああ、こんな軸で考えられるのかと。逆に言うと、ただ1つの軸だけで見ていたのが、偏差値35だった頃の僕でした(苦笑)。
平井:あまりにも情報があふれて、現象の処理だけに終始することがあるんですよね。私は、学生にレポートを書いてもらうとき、1つだけ条件を出すんです。「私が読んだとき、面白いレポートを出してね」と。
つまり、そういう切り口で来るのか、その軸があったか、というものを出してほしいということです。みんな頭を抱えていますが、その作業によって、見えていなかったものが見えてくるのが面白いわけです。見えている現象だけを記述してもなんにもなりませんから。
西岡:僕が『東大思考』という本で描きたかったのも、まさにそこなんです。日常生活のレベルから思考を深くすること、誰かと同じものを見ていても、もっと違う見方があるんじゃないかと常に疑ってかかるということが、頭を良くする行為ではないのかなと。
平井:そうですね。根幹、本質がどこにあるのか。その現象を生み出している構造や因果を理解すると、打つ手が見えてきます。
ビジネスの世界でも、この新しい事業はなぜうまくいかないのか、という問題が発生したとき、そこには必ず理屈があり、それを理解すれば解決策が見えます。ミクロであれマクロであれ、押さえるべきものをどれだけ押さえているかということが大事ですね。
東大受験は教科書だけで十分
西岡:僕はまだ大学生で、社会人経験がありませんが、受験の世界では本当に押さえるべきことは、実は少ないということもあります。
平井:そうですね、西岡さんの本を読んでうなずいたのは、受験の段階では覚えることは少ないということです。科目によってばらつきはありますが、例えば物理や数学は、覚えることはほぼありませんよね。
小学生のときにピタゴラスの定理をしっかり理解できていると、その後の三角関数もすべてわかりますし、そこに線を足したり、右、左と見比べたりするだけで、別の定理がイメージできたりもします。実は、小学校のときから根本はずっと一緒だったりするんです。
西岡:わかります。基本の図形さえわかっていれば、まったく暗記しなくてよいものを、みんな「サイタコスモスコスモスサイタ」なんて丸暗記しているんですよね。