これから買う人を”予測”できるPOSデータ
嶋:「好きだけど知らないもの」という切り口は面白いです。僕は広告の仕事は「人が言語化できない欲望を発見してあげる」ことだと思っています。「欲しいけど、何が欲しいのかわからないもの」という微妙なものにリーチできるのは、haveとwantによるソーシャルグラフを積み上げているSumallyだからこそですね。
山本:僕が厚顔無恥に「物欲刺激」と言い切れるのは、「僕が見つけてあげる」とは言っていないからです。見つけるのを手助けするのは、あくまでユーザーとシステム。
嶋:もし、すでに欲しいものが決まっていれば、AmazonとかGoogleで探せばいいけど、それだとモヤモヤして言語化できない欲望をすくい上げることはできませんからね。しかも、無理矢理に物欲を刺激するといった感じではないのがいいと思います。
山本:それでようやくコマースの話しになるのですが、4月21日から、個人間取引(C2C)ができる機能「Sumallyマーケットプレイス」をリリースしました。たとえば迷彩柄のオールスター(スニーカー)が売りに出されたとしたら、そのアイテムをwantしていたユーザーに「出品されました」とプッシュ通知されます。さらに、これはこれからなんですけど、オールスターの関連アイテムをwant / haveしているユーザーにも「欲しそうなものが出品されました」とレコメンドをできるようにしていきます。want / haveにひもづけて精度の高いレコメンドができるのは革新的だと思っています。
嶋:wantを押しておけば、「Wishリスト化」できているということですよね。
日下部:そうですね。出品者はそこに売りにいけるし、さらにレコメンド機能も実装する。購買活動を緩やかに変えていけるのではないかと思っています。テスト期間では、出品したものが2週間で30~40%ほど売れていくという調査結果も出ているのですよ。
山本:ほかにもC2Cの取引ができるサービスがありますが、「いらなくなった中古を売る」といった雰囲気が強い。Sumallyが狙っていきたいのはそうではなく、「2次流通でも価値があるアイテムを、いちばん簡単な方法で最適な人に届ける」というサービスです。さらにいうと、所有のクラウド化を実現して行きたい。Amazonがあることで本やCDを持ち続けなくてもよくなったように、すべてのアイテムをいつでも売買できるようにし、「いつでも引き出せる・預けられる」という状態にしたいのです。
嶋:C2Cだと、売買のトラブルが心配ですよね。
山本:決済を仲介するので、比較的安全だとは思います。一度、代金をSumallyが預かり、商品が購入者に届いたら出品者に振り込む。つまり商品を送らなかったり、不良品を送ったりすると代金が振り込まれない可能性があるので、不正をするメリットがないのです。トラブルがゼロにはならないと思いますが、目指していきたいです。
嶋:どのようにマネタイズするのでしょうか?
山本:今は手数料無料としていますが、いずれは課金したいと思っています。あとは、ユーザーの属性と嗜好情報を統計化して提供していくマーケティングデータ事業も、今後の展開として考えています。
嶋:なるほど。
日下部:Sumallyのユーザー数は約40万人、アイテム数は約150万点で、このデータに約6000万回のwant / have数がひもづいています。これによってアイテム同士の濃い関連グラフが作れるというわけです。
山本:たとえばNIKEはアイテム数が1万0342点あり、want / haveは12万回。特に人気なのは、NIKE+ FuelBandという商品です。Sumallyのデータを使えばFuelBandをwantしているユーザーの性別や年代、アクセスしているデバイスはもちろんのこと、どんな車種のクルマやスニーカーをwantしているかなんてこともわかります。FuelBandは活動量を記録するアイテムなので、スニーカーの情報は貴重ですよね。あと、NIKEのほかにはAppleの商品が好みなんてこともわかります。
嶋:buyだけはなく、want / haveという人の気持ちが動くところをとらえられるから、Sumallyで取得できるデータに含まれるユーザー心理はレイヤーが広いですよね。
山本:Future POSという言い方をしていますけど、別にドラえもんの未来ではなく、「これから何かを買うかもしれない」というユーザーの気持ちを商品単体でとらえられるサービスは、Sumallyのほかにないと思います。
エンジニアチームをまとめるコツは?
嶋:現在のユーザー数は40万人だとすると、大きなクライアントを相手にするためには、もっとユーザー数を増やす必要がありそうですね。
山本:まずは、100万ユーザーを目指しています。というのも、雑誌の売り上げはひとつの出版社合計で100万部くらいですよね。40万だと雑誌単体とは勝負できるけど、出版社と勝負するためには、やはり100万は必要。一方、Sumallyのデータを使えば、コンテンツに関係なく、「この趣向を持っているユーザーにはこの広告」という発想が可能になります。雑誌では東洋経済を読んでいる読者層に向けて広告を出すのが当たり前でしたけど、Yahooニュースだろうが、東洋経済オンラインだろうが、Google検索だろうが、コンテンツではなく「人区切り」を単位にした広告出稿ができるかもしれない。
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