HIS、初の赤字で漂う「旅行の店頭販売」の限界 新型コロナの拡大前から課題だった市場の変化

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HISに限らず、店舗型の大手旅行会社は未曽有の需要減とビジネスモデル転換の狭間でもがいている。JTBは4~9月期に782億円の最終赤字に転落。グループ人員6500人の削減や店舗の統廃合、営業のデジタル化を進める構造改革に乗り出した。

近畿日本ツーリストを擁するKNT-CTホールディングスも、2024年度までに従業員の3分の1を削減するなど大ナタを振るう。HISの澤田会長も「よほどじゃない限りリストラはしない」とする一方、「もしもの場合は思いきってリストラしますけど」と語っている。

課題はコロナ以前から明確だった。台頭するネット専業の旅行会社(OTA)との競争だ。ネット販売は店頭販売のように人手がかからず、生産性が高い。客も便利なネットでの予約に急速にシフトしており、店舗型の旅行会社は変革を迫られていた。コロナによって需要減と店舗での対面を避ける動きが重なり、課題が一層浮き彫りになったと言える。

先行するOTAはシェア拡大で大手を振り切る

ただし、ビジネスモデルの転換も容易ではなさそうだ。航空券予約サイト「エアトリ」を運営するOTAのエアトリ・柴田裕亮社長は大手旅行会社のネットシフトに対し、「優位性を生かしてシェアを拡大することが防御策になる」と語る。

優位性とは、システム投資を重ねて客の購入率を引き上げてきたことや、広告宣伝投資でブランド認知度を高めてきたことなどだ。同じ旅行会社でも、ネットに適したコスト構造や販売体制は一朝一夕に組めるものではない。

さらに、12月14日にはGoToトラベルの全国一斉停止が決まった。期間は12月28日から2021年1月11日まで。強化を打ち出したばかりの国内旅行事業でも、「第2波」が到来した7月頃のように年末年始の予約キャンセルと、急速な観光マインドの落ち込みが懸念される。コロナの感染動向次第とはいえ、2021年は出足から予約獲得に苦労することになりそうだ。

ビジネスモデルの転換という課題をどう解決していくのか。コロナ禍の出口が見えず、GoToの停止で頼みの国内旅行需要も冷え込む中、HISをはじめとする大手旅行会社の苦闘はまだまだ続きそうだ。

田邉 佳介 東洋経済 記者

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たなべ けいすけ / Keisuke Tanabe

2007年入社。流通業界や株式投資雑誌の編集部、モバイル、ネット、メディア、観光・ホテル、食品担当を経て、現在は物流や音楽業界を取材。

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