「SDGsで危機は脱せない」"緑の資本主義"の欠陥 失敗したらやり直せない地点に近づいている
中島:今のお話を、私の職場である東工大でしていただきたいですね(笑)。東工大には、理科系の大学なので、新しい技術さえ開発すれば、社会が直面している問題を一発で解決できるといった「技術楽観論」が根強く存在します。
しかし、私は保守として技術楽観論を受け入れることはできません。もともと保守主義はエドモンド・バークがフランス革命を批判したことにさかのぼります。フランス革命は、人間は理性によってユートピア社会を作り上げることができるという思想に基づいていましたが、バークはこの考えを危険視しました。保守は人間の理性に対して懐疑的な見方をするのです。そのため、技術楽観論とは相容れないのです。
ガンディーが鉄道を批判したワケ
斎藤:技術は資本主義の引き起こす問題を悪化させる面がありますよね。
中島:私が資本主義の問題を乗り越えるうえで参考にすべきだと考えているのは、ガンディーの思想なのですが、技術と資本主義の関係について彼は興味深いことを書いています。
『真の独立への道(ヒンド・スワラージ)』という本で、鉄道を批判しているのです。鉄道の導入によって、人々はゆっくり歩くことを忘れ、遠くへ行くことに価値を見出すようになってしまった。自分の作った物も、身近なところで売りさばくより、より遠いところでは、より高く売れる。
その結果、人々は隣人の存在を軽視するようになり、身近で飢餓が起こっても顧みなくなってしまった。疫病のパンデミックが起きるのも、人々が遠くまで簡単に移動できるようになったからです。
斎藤:それはコロナも同じです。
中島:ガンディーは鉄道という新技術の引き起こす問題に対して、「隣人の原理」を説きます。隣人の支援を優先しなければ世界はバランスを失うとして、近くにいる人たちとの支え合いを重視するのです。
また、ガンディーはスピードを批判し、「よいものはカタツムリのように進むのです」と述べています。これはイギリスの塩専売制に反対して行われた「塩の行進」の根底にある考え方です。ガンディーは約380キロの道のりを歩きながら、イギリス支配の不当性を説きました。これにより、非暴力不服従運動に火がつき、インド独立への道が開かれたのです。
現代では鉄道よりも飛行機が問題になっていますが、飛行機に乗れば、簡単に遠くまで行くことができます。私も北海道大学に務めているとき、北海道と東京の間を何往復したかわかりません。学会に参加するために海外にも何度も行きました。
しかしその結果、現代人はスピードに囚われ、隣人の存在や近くにいる人たちとの支え合いを忘れてしまったのではないか。これが、ガンディーが私たちに問いかけていることです。