「SDGsで危機は脱せない」"緑の資本主義"の欠陥 失敗したらやり直せない地点に近づいている
斎藤:その話はとても興味深いですね。真っ先に思い浮かんだのが、グレタ・トゥーンベリのことです。彼女は、飛行機に決して乗らないことで有名ですから。そして、彼女が国連でスピーチをするために、欧州からヨットでアメリカに行った話を思い出しました。
ここで重要なのが、グレタはみなに対して、自分のように飛行機に乗るな、アメリカに行くならヨットを使え、といっているわけではないということです。彼女は、自らの特権的地位をはっきりと自覚しています。
普通の人には、大西洋をヨットで横断などできないわけですが、まさにその困難さが、いかに現在のシステムで持続可能な生活をする可能性が奪われているかを示している。その不合理さを彼女は実際にヨットで横断するというパフォーマンスを通じて、社会に突きつけているわけです。
その意味で、鉄道を拒否したガンディーにせよ、飛行機を拒否するグレタにせよ、目指しているのは、自らの影響力を使って、現在のシステムの不当性・不合理性を社会に認識させることに他なりません。すると、そのようなアクションによって、一部の人たちの認識に劇的な転換が起き、システム・チェンジに向けた動きが生じることになります。
ハーバード大学のエリカ・チェノウェスという研究者が、ガンディーにも言及しながら、3.5%の人々が非暴力的な手法で、本気で動き出せば、システムを変えられるということを実証的に示しています。現代のグレタのアクションは、3.5%の運動を呼び起こしつつあるのではないでしょうか。
3.5%の人々の力が社会を変える
中島:マルクスやガンディーのように、資本主義を乗り越える大きなビジョンが必要ですよね。政治の世界では、菅義偉首相があいかわらずの規制緩和や構造改革を訴えています。しかし、このやり方がうまくいかないことは、安倍政権の7年8カ月を見れば明らかです。
本当なら、野党が自民党と根本的に異なるビジョンを提示すれば、国民の支持を集めることができるはずなのですが、いまの野党は目先の政策論にとらわれ、世界観やビジョンを明示できていません。そして、野党共闘という数合わせに終始しています。
斎藤:そうですね。それに、野党が細かい政策ベースの議論しかできなくなっている原因は、日本の左派やリベラルの言論の貧困にも問題があると思います。彼らは小手先の政策論ばかり語り、大きなビジョンを提示しようとしません。これは、資本主義とは違う社会を思い描くことができないという、想像力の貧困化のせいです。
気候危機は深刻化する一方で、資本主義の信奉者たちの楽観的な見方は有効性を失っていきます。そんななかで、資本主義の格差や環境破壊に本気で怒る人たちが3.5%集まれば、社会を変えることができるでしょう。そのためには、まず、30年後を思い描く想像力を取り戻す必要があります。
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