スラム街で一番怖い存在は「犬」という衝撃事実 危険地帯ジャーナリストが見た世界の闇

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この男性が言っている外の悪い奴らというのは、スラムに土地勘のある外部の人間のこと。つまり犯罪をするのはスラムの住人ではないのだ。

このことは、他の国のスラムでも同様だった。大きなスラムだと仕事があるので、そこで働いたことがあれば土地勘もあるし、どこの家に金があったり、若い女が暮らしているのかわかる。そうやって、狙いをつけたりして強盗や強姦をするのだ。

私がスラムで夜を避けているのは、こうした連中と鉢合わせないようにするためでもある。もちろん、トンド地区で出会ったような家族の家ならばひと晩ぐらいごやっかいになって泊めてもらうこともやぶさかではない。

しかし、大抵の場合にはその家から出ることなく過ごすため、密なコミュニケーションを重ねるだけで、スラムの全容を知ろうとする私の取材スタイルにはマッチしないので、宿泊のお誘いがあっても丁重に断るようにしている。

もちろん同じ場所に通って関係性を深めていくことも重要なので、タイミング次第では、スラムで生活してみたいとも思っていたり、いなかったり。フィリピンに住んでいる友達によれば、トンド地区で起きる事件が多すぎてニュースで報じられることはほとんどなく、犯罪件数もカウントされることはないそうだ。

犯罪統計のような資料にはあらわれてこない治安の現実というものもあるので、現地の人の声には耳を傾けておくのが得策だろう。

人に飼いならされていない野犬を警戒

「スラム街で一番怖いこととは?」

私のように危険地帯を旅するジャーナリストを生業にしていると、時々、返答に時間を要する質問をされることがある。この質問もそのひとつ。これまでは、各地のスラムの怖い体験からアドリブ的に導き出した何かを提示してお茶を濁してきた。だがあまりによく聞かれるので、きちんと整理してみようと思っていた。まず、私がスラムで恐ろしく感じるものを列挙してみよう。

犯罪(ひったくり、強盗の類)、食事(不衛生な材料を使用するもの)、ゴミ(路上に落ちているガラスなど)、糞尿(路上に放置されているもので不意に踏んでしまう)など。どれも嫌なのだが、慣れもあるので対策もすぐに浮かぶ。

犯罪については経験を積んでいたり現地の顔役に話を通すなどしておけば、絶対とは言わないがある程度は回避できる。食事も必要に迫られなければ別に食わなければいいだけの話だ。ゴミや糞尿にいたってはそれこそ自分の注意でなんとかできる(できないほどの一面に落ちていることもあるが、この際そこはカウントしないものとする)。

正直、どうにでもなるものばかりなのだ。だが、確実に避けようのない恐怖というのが存在している。それは「犬」である。特に警戒しなければいけないのは、人に飼いならされていない野犬である。動物番組などでは、出演タレントよりも動物に気を遣うそうだ。人間と違い演出しようにも交渉の余地がない「ガチ」な要素となるからだ。

そんな野生を秘めた犬たちを途上国ではよく目にする。スラムに行ったならば、無警戒に寝転んでいる様子をそこら中で見ることができる。ただしそれはデイタイム限定の姿、奴らが活動するのは日が落ちてからなのだ。

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