九州の高校生が台湾のデジタル大臣と白熱議論 唐鳳氏にぶつけた「デジタル社会で生きること」

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私は、スマホやタブレットの操作でタッチスクリーンを使いません。タッチペンを使います。というのも、指でスクリーンに触れると、機械が自分の体の一部だという錯覚に陥ってしまい、そんな行為が病みつきになってしまうことに気がついたからです。

しかし、ペンやキーボードを介していると、「私は私、モノはモノ」だと感じられ、ずっとスクリーンに触れているような感覚はなくなります。病みつきになるという行為がなければ、一時的な気分に縛られることがなくなり、精神的なインフルエンザやコロナウイルスのようなものを無自覚に広めていくことがなくなるはずです。

したがって、自分のスクリーンと一定の距離を保つというのは大事なことだと思います。そして、これもとても大事なことですが、毎日しっかり睡眠を取ることです。睡眠不足の状況では、感情面を含めて受け取る側の能力に限界があるからです。ある程度の時間を置いて、そして深呼吸をしてから同じ文字を見れば、「これは本当だろうか」「この情報は本当に広めてよいものか」と考えることができます。そうした動作を反射的なものにするのです。

マスクを付けて頻繁に手を洗うことと同じように、スクリーンと自分との距離を置くこと、そして毎日十分な睡眠を確保して、短時間の刺激を整理してから、長期的な自らの見解にまとめるということ。これらが非常に大事なことだと思います。

AIはAssistive Intelligence=補助的知能

歴史上からみた現在のデジタル社会、特にAIの将来を問う質問に対して唐鳳氏は「AIはArtificial Intelligence ではなく、Assistive Intelligenceなのだ」とし、話を続ける。

――歴史の転換の要因になったとされる火や農業、印刷機、蒸気機関など、過去の偉大な発明と比べ、AIは人間の世界を変える大きな発明になるでしょうか。もしそうであれば、人類の文明の進歩にどれだけ貢献すると思いますか(佐賀西高校)

AI技術のことを私は「Assistive Intelligence」(補助的知能)と呼んでいます。補助的知能とは、私たちを助けるものです。私たちが自分でやりたくないことを人体の外に移行して、バッチ処理(あらかじめ登録した一連の処理を自動的に実行する処理方式)を行うことです。

これと最も近いものは「火」や「炎」(火薬)の利用だと思います。本来体内で消化できる量に限りがあったり、または食べにくかったりして不健康でかつ多くの時間を消化に使っていた生活を余儀なくされていたところから、火を用いることで食物の消毒や貯蔵、燻製処理などを一度のバッチ処理できるようになる。それにより、それ以前とは異なる文明を作り出すことができました。そうして浮いた時間を、互いのコミュニケーションに費やすことができるようになったのです。

一方で、火が人間の文明を壊滅させた例があるのと同様に、AIもうまく設計されていないと悪影響を与える可能性があります。そのため、火を子どもたちに触れさせないというのではなく、消防設備を強化したり家庭科の授業や調理場で火をどのように扱うのかを教えるべきです。火は多くの人を補助してくれるものであり、社会のごく少数しか利用できるものではないと確実に理解させることが必要です。AIもそうあらねばなりません。

民主的な方法で徐々に教育をしていくことが必要です。そうすれば、AIのような技術が有用であることや、われわれの価値観にも合うものだと説明することもできるようになるでしょう。そうでなければ、たとえ家を建てても防火設備や消防設備がなければ火で失ってしまうように、社会的には受け入れられません。

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