記憶力選手権で優勝した人が語る「記憶」の本質 脳力のすべての土台は「記憶力」にある?

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例えば簡単に仕組みを説明すると「ゴリラ」という情報と「東京スカイツリー」という言葉を覚えるとして、それぞれを別々に覚えるとしたら情報量は2となります。

しかし、これらを組み合わせて「東京スカイツリーによじ登るゴリラ」というように両者を結びつけることで、情報量は1に圧縮することができます。一見すると、簡単に思うかもしれませんが、慣れないとなかなか大変な頭の作業なのです。

もともとはまったく関係ない情報どうしです。それらを何らかの共通点を見つけ出して関係性を創作するということをしなければならないからです。ポイントはなるべく面白かったり、インパクトがあったりするようなストーリーをつくることができると、記憶が強化されるという性質を使うことです。

記憶競技の大会で好成績をおさめるためにこういうトレーニングをずっとしてきたわけですが、結果的にこれは個別の情報をつなぎ合わせて新しいものを生み出すといったアイデア創出のトレーニングをしてきたようなものです。いわば異質な情報どうしを組み合わせて新しい情報をつくるという回路が脳に構築されていったのでしょう。おかげで記憶競技の練習を長く続けていくうちにどんどん新しいアイデアが浮かぶ体質になったことを、今では本当に実感しています。

ジョブズの「コネクティング・ザ・ドッツ」

かのアップル社の創業者であるスティーブ・ジョブズはかつてスタンフォード大学の卒業式に呼ばれてゲストスピーチでこんな考えを述べたことがあります。それが「コネクティング・ザ・ドッツ(点と点をつなぐ)」という考え方です。

コネクティング・ザ・ドッツとはその時点ではどんな価値があるのかはわからなくても、たくさんの経験や知識としての点(情報)を吸収しておく、それが将来何らかのタイミングでつながり新しい価値を生み出すのだという考え方です。

『子供の成功は記憶力で決まる 学力、思考力、心を育む子育て』(朝日新聞出版)
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実際彼も学生時代に将来何かに活かそうなどとの実益から逆算した動機ではなく、純粋にその美しさに惹かれて学んだカリグラフィー(文字を美しく見せる手法)が後々、マッキントッシュパソコンのタイポグラフィにつながったという経験を持っています。

単なる知識の寄せ集めでなく、個別の情報どうしを結びつけて新しい価値を創造する。これが私が記憶という能力に興味を持っている理由のひとつです。単なる記録ではない人間の記憶という能力はどんなにAIが発達したとしても普遍的な価値を持ち続けるだろうと予想しています。

ここまで話してきたように、アイデアというものは別々の情報どうしの組み合わせということならば、確率的には当然頭に入っている情報量が多いほうが有利になることは誰の目にもあきらかでしょう。では情報を頭のなかにたくさん取り込むという点において使う能力はなんでしょうか? そう、そこで記憶力の出番となってくるというわけです。

したがって子供たちには記憶に残る経験をたくさん積んでほしいと思います。将来何につながるかはわかりません。しかし、価値のあるものを生み出すのが頭のなかの記憶した情報の組み合わせであるならば、たくさんのものごとを記憶しておくことが将来必ず役に立つことは間違いありません。

池田 義博 記憶力日本選手権大会最多優勝者、世界記憶力グランドマスター

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いけだ よしひろ / Yoshihiro Ikeda

一般社団法人記憶工学研究所 MEI 所長。ライフキネティック日本支部アンバサダー、アクティブ・ブレイン協会テクニカルディレクター。50万部突破のベストセラーシリーズ『見るだけで勝手に記憶力がよくなるドリル』(サンマーク出版)など著書多数。テレビやラジオの出演も多い。
池田義博オフィシャルサイト
https://ikedayoshihiro.com/

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