一方で、ある意味「あっている」イメージもあります。例えば、多くのフランス人はいつもタバコを吸っていますし(ドラマの中ではスポーツジムの前で喫煙している女性たちが出てきます)、歩いていれば犬のフンを踏むことも少なくありません(ただしこれは20年前の話です)。
アメリカ人より性差別問題に疎いというのも間違ってはいないでしょう。ドラマの中で、裸の女性が男性の間をぬって歩く、クライアントのテレビ広告の撮影シーンがあります。これに対して、エミリーが「セクシーか性差別か(Sexy or Sexist)」と上司に問題提起すると、女性上司がこれを一蹴する場面がありますが、確かにアメリカではこうした広告はもうないかもしれません。ただ、これは世代間でかなりギャップがあり、フランス人でも若い世代はより意識が高いと思います。
ドラマに出てくる「かつての生活」
そして何より、パリという街は世界中の人々が夢見る街であることは事実でしょう。素晴らしいモニュメントや素晴らしい美術館、レストランやカフェ、ファッション、そしてパリジェンヌの「Je ne sais quoi(直訳すると、「それが何なのかはわからない」。言葉でははっきりと表現できないような、上質かつ魅力的な人やものを表す言葉)」。映画『アメリ』は、そういったイメージで世界的に大成功を収め、理想的なパリのイメージを与えました。
生き生きしているパリの風景を見ていると、ふと寂しい気分が襲ってきます。
ドラマに出てくる、5区にある「エストラパード広場」と呼ばれる小さな広場。ベーカリー、テラスのあるカフェ、レストラン、小さな噴水、花屋など、「ロマンチック」なパリをイメージするすべてがあるのですが、ベーカリーと「生活必需品」を販売する店を除いて今はすべてが閉まっています。そして、この風景を見て、私たちパリっ子はこの文化が失われていることを実感するのです。
ただカフェに座って、人々が歩いているのを見たり、おいしいクロワッサンやパン・オ・ショコラで一日を始めたり。小さなビストロでボトルワインとおいしい食事を囲みながら何時間も話す……。すべてが美しく、完璧な生活。
『エミリー、パリへ行く』を見たという18歳のレア、イネス、ゾーイは口を揃えて「ドラマの明るさとポジティブさが好き」と話します。「オペラ座、エッフェル塔、モンマルトルなど、人々がもう目を向けなくなった場所と、パリという街そのもののよさを再発見することができる作品」なのだと言います。
彼らの多くは、エミリーみたいな格好(彼女のスタイルは「シンプルシック」なパリ風ではなく、カラフルでおしゃれでトレンディなガーリースタイル)をして、ドラマに出てくるさまざまな場所で動画を撮っては、SNSに投稿することを楽しんでいるそうです。
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