もう1つ、人を入れた鉄道写真の撮影についても述べておきたい。
鉄道写真を撮ろうとすると、鉄道利用者の顔や姿が写真に入る場合がある。むしろ日常の鉄道風景を撮りたいという場合にはあえて利用者を写真の中に入れることもあろう。
しかし、撮られる側からすれば、撮影されることを承諾した場合はともかく、まったく知らない人から自分を撮影されるのは気持ちのいいものではないだろう。SNSやネットで写真が容易にupされる世の中で、自分であるとわかる状態で撮影されることの抵抗がある人もいるだろう。
先に記した施設の黙認との関係で、「撮影者がいて自分が写る可能性があることを認識している、あるいは認識できるときに、被写体になる人が撮影拒否の意思を明示していない場合には黙認したことになるのでは?」という考えもあるかもしれない。しかしそうはいかない。
無遠慮にカメラを向けてはいけない
施設へ誰を入場させるかの判断権・管理権は施設管理者が持つ。ただ、不特定多数のお客を入場させるところなら一般的に人の出入りを広く許しているといえるので、沿線の鉄道を撮影する目的だけの入場であっても一般的に黙認されることもある。
写真の被写体になる場合、本来は被写体になる人が撮影者の撮影を許すかどうか判断する権利、管理する権利を持つ。その権利を肖像権というかどうかは別として、その権利は広くお客に開放されている施設が持つ権利と質的に異なる。
人の目に触れる街の中を歩いているからといって、どこの馬の骨ともわからない者に撮影されることを一般的に承諾しているとは推定できない。そしてまた、いちいち「撮影しないでください」といわなければ撮影を黙認しているという推定は、撮影者となんの関係も持たない人に強いる対応としては過剰であって不合理である。
もっとも、結果として明らかな承諾のない撮影が違法になるかどうかは、その撮影の目的、内容、撮影の状況、被写体の写り方などの事情が勘案されて判断される。実際に鉄道写真の中に人が写り込んだからといって、直ちに損害賠償義務が発生するということはそう多くはないと思われる。しかし、だからと言って、趣味でしかない撮影の場合、知らない人に無遠慮にカメラやスマホを向けていいことにはならない。
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