「ヒルズに留まって」森ビル、グリー慰留の手札

オフィスビルで相次ぐテナント引き留め合戦

森ビルの「新たな提案」によって、グリーはオフィス移転を翻意(記者撮影)

10月27日にゲーム事業などを展開するグリーが発表した2020年7~9月期決算短信が、スマホゲームからは縁遠い不動産業界の話題をさらった。耳目を集めたのは業績ではなく、短信の最終ページに掲載された「重要な後発事象」だ。

短信の記述を要約するとこうなる。グリーは本社を構える六本木ヒルズ森タワー(東京・港区)から本社の移転を計画し、移転先のビルにはすでに入居を申込んでいた。ところが、現居のオーナーである森ビルから「新たな提案」を受け、「中長期的な経済合理性の観点から検討を重ねた」結果、グリーは申込みを撤回。約7億円の違約金が発生した。

上記の内容を盛り込んだ短信を発表した同日、グリーは2022年8月をメドに同じ六本木ヒルズ内にある六本木ヒルズゲートタワーへの移転を発表。一連の発表からは、他社のオフィスビルへ移ろうとするグリーを森ビルが引き留め、六本木ヒルズ内に留まらせた様子が窺える。

違約金を払ったグリーが得をした?

短信の記述を切り取ると、違約金を支払うグリーが損をしたように映る。ところが、複数のオフィスビル関係者は「グリーはむしろ得をした」と見る。交渉の経緯についてグリーと森ビルはコメントを避けたが、「違約金による損失分を上回る好条件を森ビルが提示した」というのがオフィスビル業界の見立てだ。

グリーが移転予定の六本木ヒルズゲートタワー(左)と、現在入居している六本木ヒルズ森タワー(右)(記者撮影)

ビルオーナーによるテナントの囲い込み自体は以前からあった。不動産各社はビルの管理会社を通じてテナントの移転計画をいち早く入手し、保有・管理するビルの空室への移転を誘導する。とりわけ都心に多数のビルを保有する大手デベロッパーは、テナントの要望に合ったビルを提案しやすい。

漫画アプリを展開するアンドファクトリーは10月15日、来春に予定していた東京・田町駅前のオフィスビル「ムスブ田町」への移転を中止すると発表した。移転を決めたのは昨年6月だが、その後コロナ禍に襲われ同社が運営するホテルの稼働が低迷。固定費圧縮の必要に迫られた。

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