国道16号線が「翔んで埼玉」の世界観にハマる訳 私たちを思い込ませた「容疑者」は一体誰だ

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映画に登場する「埼玉的」な町は、いずれも16号線沿いにある。埼玉県民である麻実の正体がばれたとき、彼が東京から逃げ込む春日部、埼玉県の大立者、麿赤兒演じる西園寺が居を構える所沢、さらに、劇中で東京都内でありながら「都会指数ゼロ」というポジションで語られるのが、八王子に町田である。

なんと、16号線らしき道も『翔んで埼玉』には登場する。

東京から埼玉へと逃亡する麻実と壇ノ浦は、池袋からいったん埼玉と敵対する千葉県に入る。そして、柏から野田、埼玉の春日部へとつながる草深い未舗装の「農道」を通る。ミノをかぶった農夫3人が引っ張る荷車(どうやらこれが公共交通機関らしい)に2人は身をひそめ、県境越えを目論む。農道に突き刺さった木製看には「柏」「野田」とある。柏から野田に抜ける道といえば16号線である。

おっかない車が走る道というイメージ

極めつけは江戸川を挟んで埼玉県勢と千葉県勢が対峙する決闘シーンだ。登場するのは、トラクターにヤンキーに暴走族に改造バイク、電飾が眩しいデコトラだ。おっかない車が走る道、16号線のパブリックイメージがギャグの要素として利用されているわけだ。

現実の16号線も1970年代から80年代にかけては暴走族が走り回る道として有名だった。物流拠点が多いから今も昔もたくさんのトラックがひっきりなしに走っている。1970年代、菅原文太主演の『トラック野郎』シリーズの大ヒット時代に人気を博した電飾だらけのデコトラは、今も16号線沿いで見かけることがある。沿線に居並ぶホームセンターやショッピングモールには、地元住民が自宅からご近所感覚で車で乗りつけるため、一見マイルドヤンキー風のスウェット姿の人たちも目立つ。

私は、『翔んで埼玉』を池袋の映画館で観た。「埼玉の首都」と映画パンフレットに記された街である。平日夜にもかかわらずほぼ満員の観客は、次々と繰り出される「埼玉ギャグ」の数々に爆笑していた。埼玉に近い池袋の映画館に集まった観客の多くが、映画の中で示された「都会指数」、東京港区と埼玉の格差に対して「あるある!」と膝を打ったからだろう。

原作は『パタリロ!』で著名な魔夜峰央が雑誌『花とゆめ』別冊(白泉社)に3回に渡って掲載した同名の漫画である。掲載年次は1982年冬、83年春、83年夏だから、40年近くも前の作品だ。数年前ネット上でこの漫画の存在が話題となって、絶版となっていたコミックが復刊され、クリーンヒットとなり、あれよあれよというまに映画化された。

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