なぜ損を避けたい人ほど大損してしまうのか 受け入れがたい「損失確定」とどう向き合う?

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例えば株を買ってその後上がったとします。上がればうれしいのは当然です。ところがそのとき、心の中に2つの矛盾する気持ちが生まれるのです。1つは「まだ上がるかもしれない」という期待感、もう1つは「今売っておかないと下がるかもしれない」という不安感です。「損失回避性」の強い人の場合、後者の気持ちが強くなりますので、わずかな利ザヤでも利益確定をしたくなります。

逆に、下がった場合はどうでしょう。投資した企業の業績が悪化したりして下がる場合は早く見切りをつけて売ったほうがいいことが多いのですが、損を確定するのが嫌で、そのまま持ち続けます。さらに下落が続いても我慢を続けることになりますが、下落の最終局面では、いわゆるセリングクライマックスが起きて下げ幅が拡大します。そうなると心理的にはパニック状態に近くなり、「このまま持っていたら潰れるかもしれない」と慌てて売ってしまいます。だいたいその後、株価は上昇することが多いのです。これは当然です。最後に売る人がいなくなれば株は自然に上がるからです。

結果として上がったときはわずかな利ザヤで、そして損切りしたときの幅は大きいため、よくいわれるように「株は9勝1敗でもなかなか儲からない」となってしまうのです。

9万人が企業型確定拠出年金で損をしている

さらにいえば、株が下がるときは大きく分けると2つのケースがあります。投資した個別企業の業績や財務内容が悪化して下げる場合、これは早く売ったほうがいいのです。

一方、「○○ショック」といわれるような場合は、その企業自体に大きな業績悪化がなければ、一時的に大幅下落があっても、やがて株価は戻るでしょうから、慌てて売る必要はありません。ところが、前者の場合は少しの損失でも嫌って売ることをせず、持ち続ける反面、後者の場合は驚いて慌てて売ってしまうというまったく逆のことをやってしまいがちなのです。

実際、こんな事例は株式投資だけでなく、年金の運用でも見て取れます。確定拠出年金は始まって20年近く経ちますが、今年2月に「企業年金連合会」が発表した「確定拠出年金実態調査結果」によれば、スタート以来の通算運用利回りがマイナスになっている人は1.2%います。

企業型の確定拠出年金加入者は約750万人いますから、9万人ぐらいの人がトータルで損をしているということになります。スタートしたのが2001年ですから、日経平均株価で見ても当時から2倍以上になっていますし、毎月積み立てで放ったらかしておいても1.9倍になっています。放っておいても損をすることはありえなかった20年間なのです。

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